SAKE ・ 入門

日本酒入門

米・水・麹・酵母と、並行複発酵から知る基本

SAKE / 約13分で読めます / 2026

「日本酒って種類が多すぎて選べない」という声を、よく聞きます。でも、味を決めている要素は意外と少なくて、そこさえ分かればラベルの言葉は急に読めるようになります。

純米、吟醸、大吟醸、本醸造、生酛、無濾過。日本酒のラベルには見慣れない言葉が並びますが、どれもちゃんと意味があります。知らなければただの飾りに見えますが、意味が分かると景色が変わります。

この記事では、日本酒の基本を製法と分類から整理します。何からどう造るのか、「特定名称」とは何か、味わいをどう見て、どんな温度で飲むのか。最後に、違いを知るための8本も選びました。専門用語はできるだけかみ砕くので、暗記はしなくて大丈夫です。

なお本記事は、酒税法・国税庁の表示基準・各蔵の公式情報など、確認できた事実を土台にしています。確証の取れない通説は「〜と言われる」と正直に書き分けました。日本酒は俗説も多い世界なので、そこは誠実にいきたいと思います。


01 ・ DEFINITION

日本酒とは何か

日本酒(清酒)は、米・米麹・水を発酵させて「こした」醸造酒です。酒税法では、こうして造られアルコール分が22度未満のものを清酒と定めています。ビールやワインと同じ、蒸留しない醸造酒の仲間です。

意外に大事なのが「こす(濾す)」という一語です。発酵の終わったもろみを、澄んだ酒と酒粕に漉し分ける。この工程を経て初めて清酒になります。まったく濾さずに残したものは「どぶろく」で、同じ米から造っても、法律上は清酒ではなく別の区分になります。

では、蒸留していないのになぜ日本酒は度数が高めなのでしょうか。鍵は並行複発酵という、世界的にも珍しい仕組みにあります。ふつう、米のようなでんぷん原料は、まず糖に変え(糖化)、それから酵母がアルコールに変えます(発酵)。日本酒はこの糖化と発酵を、同じタンクの中で同時に進めます。ワインは果汁の糖をそのまま発酵させる「単発酵」、ビールは糖化してから発酵させる「単行複発酵」です。日本酒だけが、糖化と発酵を並走させています。

日本酒の発酵の版画調イラスト。もろみが泡立つ仕込みタンクと櫂棒、酒蔵の静かな情景。

この二人三脚のおかげで、日本酒はもろみの段階で20度前後まで到達します。蒸留していないのに20度前後まで届くのは、醸造酒としては高い部類です。

「日本酒」という表示は、2015年に国が定めた地理的表示(GI)で保護されています。国産米だけを使い、日本国内で造られた清酒でなければ「日本酒」とは名乗れません。海外産米や海外醸造のものは、清酒ではあっても「日本酒」とは表示できないのです。


02 ・ INGREDIENTS

米・水・麹・酵母、四つの素材

日本酒を形づくるのは、たった四つの要素です。米、水、麹、酵母。この組み合わせと扱い方の違いが、そのまま味の幅になります。

日本酒の原料の版画調イラスト。実った稲穂の束、笊に盛った白い酒米、水を張った器。

食用の米(飯米)でも造れますが、多くは酒造好適米(酒米)を使います。酒米は飯米より粒が大きく、中心に「心白(しんぱく)」という白く不透明な芯を持ち、外側のタンパク質が少ないのが特徴です。兵庫県産で「酒米の王様」とも呼ばれる山田錦、新潟の五百万石、長野の美山錦、岡山の雄町などが知られています。

心白が白く見えるのは、でんぷんが多いからではなく、粒が緩く集まって隙間が多く、光を乱反射するからです。この隙間に麹菌が入り込みやすく、良い麹ができます。

精米(米を削る)

米の外側にはタンパク質や脂質が多く、これが多すぎると雑味のもとになります。そこで表面を削り落とします。残った割合が精米歩合で、精米歩合60%といえば、外側の40%を削り、芯の60%を残したという意味です。つまり数字が小さいほど、たくさん磨いています。食べるお米なら「もったいない」ですが、酒造りではよく磨くほど贅沢、というわけです。

水と麹と酵母

日本酒は成分の約8割が水で、仕込み水の硬さは酒質の傾向を左右します。は、麹菌(学名 Aspergillus oryzae。「国菌」にも選ばれています)を蒸米に繁殖させたもので、米のでんぷんを糖に変える糖化を担います。そして酵母が、その糖をアルコールと香りに変える発酵を受け持ちます。華やかな吟醸香も、酵母の働きから生まれます。

「日本酒は米だけの純粋なお酒」というのは、半分だけ正解です。純米酒系は米・米麹・水のみですが、本醸造酒や吟醸酒には少量の醸造アルコール(白米重量の10%まで)を加えられます。さらに普通酒では糖類や酸味料を足すこともできます。「米だけ」かどうかは、次章の分類で読み解けます。


03 ・ HOW IT'S MADE

日本酒はどう造られるのか

大まかな流れは、精米 → 洗米・浸漬 → 蒸米 → 製麹(麹づくり)→ 酒母(酛)づくり → 三段仕込み → 搾り → 火入れ・貯蔵 → 瓶詰めです。要所だけ押さえておけば十分です。蔵に伝わる言葉に「一麹・二酛・三造り」があります。大事な順に麹・酒母・もろみ、という意味です。

日本酒の酒蔵の道具立て(木桶の仕込みタンク・麹蓋の蒸し米・櫂棒・吊るした杉玉)を描いた版画調イラスト。

酒母(酛)=酵母を安全に育てる

酒母は、たくさんの酵母を純粋に増やした「もとだね」です。雑菌や野生酵母を抑えるために乳酸で酸性にするのですが、その乳酸の得方で呼び名が変わります。

ここでよくある勘違いをひとつ。生酛も山廃も、乳酸は「添加しない」点は同じです。違いは、山卸という作業をするか省くか。山卸とは、真冬の蔵で夜通し、櫂で米をすりつぶす重労働のことです。山廃は、山卸を省いても酒母ができると分かって生まれた製法です(「山廃=山卸廃止酛」)。省いたのは山卸という作業で、乳酸の扱いは生酛と同じです。

三段仕込み

酒母に麹・蒸米・水を加えて仕込むもろみは、一度に全部入れず、初添(はつぞえ)→ 仲添(なかぞえ)→ 留添(とめぞえ)と3回に分けて足していきます。しかも初添の翌日は「踊り」といって何も加えず酵母を増やす日にするので、実際は4日がかりです。一気に入れないのは、酒母の酸が薄まって雑菌が湧くのを防ぐため。急がず段階的に増やすことで、雑味の少ない澄んだ酒に仕上がります。

搾りと火入れ

発酵を終えたもろみを搾る工程が上槽(じょうそう)です。機械で圧搾する方法のほか、袋を吊るして雫だけを集める方法などがあります。同じ搾りでも、最初に自然に出てくるあらばしり、中盤のバランスの良い中取り、最後に強く搾る責めと、出てくる順で表情が変わります(これは搾りの「順番」であって、方法の名前ではありません)。

そのあと、香味を安定させるためにおよそ60度から65度で加熱するのが火入れで、ふつうは貯蔵前と出荷前の2回行います。この火入れを一度もしないのが生酒、出荷前に1回だけが生貯蔵、貯蔵前に1回だけが生詰。フレッシュさの残り方が少しずつ違います。


04 ・ CLASSIFICATION

特定名称とラベルの読み方

「純米」「吟醸」「大吟醸」といった呼び名は特定名称と呼ばれ、国税庁の基準で決まっています。難しく見えますが、決め手はたった二つです。(1)醸造アルコールを加えるか(=純米かどうか)と、(2)どれだけ米を磨くか(=精米歩合)。この二軸で読めます。

磨きの基準はこうです。吟醸は精米歩合60%以下、大吟醸は50%以下、本醸造は70%以下。純米吟醸なら「醸造アルコールを加えず、精米歩合60%以下」という具合に、二つを組み合わせて名前が決まります。「特別純米」「特別本醸造」は、精米歩合60%以下か、または特別な製法を説明表示したものに付きます。

精米歩合(磨き)純米系(米・米麹・水だけ)本醸造系(醸造アルコール添加)
50%以下純米大吟醸酒大吟醸酒
60%以下純米吟醸酒吟醸酒
60%以下 または特別な製法特別純米酒特別本醸造酒
70%以下(なし)本醸造酒
規定なし純米酒(なし)

ひとつ、勘違いされやすい点があります。素の「純米酒」には、精米歩合の決まりがありません(2004年1月施行の基準改正で撤廃されました)。だから「純米だからよく磨いている」とは限りません。あえて磨きを抑え、米の旨味を残す純米酒もあります。

「純米か、アル添か」という議論も、今もあちこちの居酒屋で交わされています。ただ、これは優劣の話ではありません。醸造アルコールは香りを立たせ、味をすっきりさせる技術で、鑑評会で入賞する大吟醸にも添加型があります。特定名称は味の良し悪しの格付けではなく、製法と磨きの分類です。だから特定名称を名乗らない「普通酒」にも、おいしい食中酒はたくさんあります。


05 ・ TASTING

味わいの見方と、温度で変わる楽しみ

味わいは、香りの高い/低い味の濃い/淡いの二軸で捉えると分かりやすいです。日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)の4タイプ分類が便利です。

ラベルの数字も少しだけ。日本酒度は糖分の目安で、プラスは辛口寄り、マイナスは甘口寄りの傾向を示します。ただし体感の甘辛は酸度(キレ・濃淡)やアミノ酸度(旨味・コク)との兼ね合いで変わるので、「日本酒度がプラスだから必ず辛口」とは言い切れません。数字は方向の目安、くらいがちょうどいい。

そして日本酒の大きな魅力が温度の幅です。冷たい方から、雪冷え(約5度)・花冷え(約10度)・涼冷え(約15度)、常温を挟んで、日向燗(約30度)・人肌燗(約35度)・ぬる燗(約40度)・熱燗(約50度)と続きます。同じ一本が、温度で驚くほど表情を変えます。華やかな吟醸系は冷やして香りを、旨味ののった純米・生酛系は燗にして、という傾向はありますが、例外も多いです。冷やと燗を飲み比べるだけで、日本酒はぐっと面白くなります。

「冷や(ひや)」は、本来常温の酒を指す言葉です。冷蔵庫のなかった時代、酒は「燗(温める)」か「冷や(温めない=常温)」の二択でした。冷たく冷やした酒は「冷酒(れいしゅ)」です。だから「冷やで」と頼んで常温が出てくることがあるのは、この古い言い回しが今も残っているからです。


06 ・ EIGHT BOTTLES

最初に飲み比べたい8本

日本酒の幅を体感しやすい8本を選びました。優劣のランキングではなく、華やかな大吟醸・淡麗辛口・濃醇な純米・生酛や山廃・発泡といったタイプの違いを、飲み比べで知るための並びです。気になった一本は、そのまま酒記に記録して、自分の反応を残していけます。

価格や入手性は時期・流通で大きく変わるため、この記事では固定の価格表記を避けています。特に人気の地酒は、流通が限られたり定価と実勢価格が離れたりすることがあります。まずは手に入りやすい一本から始めてください。


おわりに

日本酒は、米・水・麹・酵母というたった四つの素材から、これだけ広い世界をつくります。磨き方や酒母の育て方、搾りのタイミング、注ぐ温度が少し変わるだけで、味は表情を変えます。全部を覚える必要はありません。「この旨味は米からかな」「この香りは吟醸だからか」と、飲みながら少し想像できれば十分です。

大切なのは、正解を当てることではなく、自分の好みを知ることです。「華やかな薫酒が好きらしい」「意外と燗が心地いい」「淡麗辛口が食事に合う」など、自分の好みが少しずつ分かってくると、次の一本を選びやすくなります。記録を残しておくと、自分の傾向を後から見返せます。特定名称も日本酒度も、そのための地図の目盛りです。

飲んだ一本を、ぜひ酒記に記録してみてください。銘柄と、その日の一杯と、感じたことを一言で大丈夫です。積み重なった記録は、やがてあなただけの「好みの地図」になります。記録を見返しながら、次の一本を選んでみてください。


よくある質問(FAQ)

純米酒と本醸造、どちらが良いお酒?
上下ではありません。純米酒は米・米麹・水だけで造る酒、本醸造は少量の醸造アルコールを加えて香りを立て、味を軽く仕上げたものです。どちらにも高品質な酒があり、好みと料理で選ぶのが正解です。
精米歩合の数字が小さいほど良いお酒?
数字が小さいほど米を多く削っています(雑味が減り、香りが立ちやすい)。ただし「良い=高い」ではありません。あえて磨きを抑え、米の旨味を活かす酒もあります。数字は味の方向性の目安で、順位ではありません。
「冷やで」と頼むと、どんな温度で出てくる?
本来「冷や」は常温を指す言葉です。冷たく冷やした酒は「冷酒」です。お店によって解釈が分かれることがあるので、冷たいのが良いときは「冷酒で」、常温なら「常温で」と伝えると確実です。
日本酒度がプラスなら辛口ってこと?
日本酒度は糖分の目安で、プラスは辛口寄りの傾向を示します。ただし体感の甘辛は酸度やアミノ酸度でも変わるため、数字だけで甘辛は決まりません。方向の目安として受け取るのがちょうどよいです。
開けたあと、どれくらいで飲みきればいい?
火入れした酒は、直射日光と高温を避け、しっかり栓をして冷暗所で。開栓後は香りが少しずつ変わるので、数週間ほどを目安に。生酒(火入れなし)は特に繊細なので、要冷蔵で早めに楽しみきるのがおすすめです。

主な参考・出典

  • 酒税法 第3条第7号(清酒の定義/アルコール分22度未満・「こす」工程など)
  • 国税庁「清酒の製法品質表示基準」(特定名称・精米歩合・こうじ米使用割合・醸造アルコールの上限など)
  • 国税庁 地理的表示「日本酒」の指定について(2015年・国産米/国内製造の要件)
  • 日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)「香味特性別分類(4タイプ)」
  • 各蔵・各社公式情報(旭酒造、朝日酒造、八海醸造、萬乗醸造、新政酒造、菊姫、清水清三郎商店、宝酒造 ほか)

本記事の制度・銘柄情報は執筆時点(2026年)の情報です。度数・精米歩合・流通状況は変更される場合があります。お酒は20歳になってから、適量を楽しみましょう。