VODKA ・ 入門
ウォッカ入門
無味無臭のなかにある、奥深さ
VODKA / 約11分で読めます / 2026
ウォッカは、無味無臭のお酒だとよく言われます。カクテルのベースに便利なのは知っていても、それ単体で味わう楽しみは、あまり語られません。でも、よく冷やしたウォッカをキュッと一口飲むと、無味のなかにほのかな甘みやなめらかさがあることに気づきます。世界でいちばん飲まれている蒸留酒のひとつなのに、その素顔は意外と知られていません。
ウォッカの面白さは、この「無」に向かう設計思想にあります。原料の香りをできるだけ削ぎ落として、透明でクリーンな一本を目指します。ところが完全な無個性にはならず、原料や造りによって、口当たりにわずかな表情が残ります。無味と言われるお酒の、そのわずかな違いを味わうところに、ウォッカ好きの楽しみがあります。
本記事は確認できた事実を土台に、ウォッカとは何か、どう造られ、どんな産地とブランドがあり、どう飲むと本来の味わいに近づけるのかを、やさしくご紹介します。最後には、最初に飲み比べたい8本もそろえました。読み終わるころには、無味無臭という言葉の奥に、意外な奥行きがあることに気づくはずです。
01 ・ WHAT IS VODKA
ウォッカとは何か
ウォッカは、水とエタノール(アルコール)を主成分とする、無色透明の蒸留酒です。英語版ウィキペディアも、ウォッカを「主に水とエタノールから成る、無色透明の蒸留酒」と説明しています。エタノールを除けば、味も香りも色もほとんど残っていません。この澄んだニュートラルさこそが、ウォッカの最大の特徴です。
原料は穀物やジャガイモ
ウォッカは、デンプンや糖を多く含む植物なら、いろいろなものから造れます。今日いちばん多いのは穀物で、大麦・ライ麦・小麦・トウモロコシなどが使われます。加えてジャガイモ、そして糖蜜(モラセス)などから造られるものもあります。地域によって主力の原料が違い、ロシアは小麦、ポーランドはライ麦、フィンランドは大麦が中心とされます。
米や大豆、ブドウ、テンサイなどから造られるものもあり、原料の自由度が高いのがウォッカらしいところです。なお、ヨーロッパ連合では2008年に発効した規則で、原則として穀物・ジャガイモ・テンサイの糖蜜を原料とするものに「ウォッカ」の表示が認められています。
連続式蒸留で高純度に
ウォッカの造りは、原料を発酵させたもろみを連続式蒸留器(カラムスチルとも呼ばれます)にかけるところから始まります。蒸発と凝縮を連続で繰り返し、およそ95から96パーセントという非常に高い純度のアルコールを取り出します。日本語版ウィキペディアも「連続式蒸留器にかけ、そこから得られる96パーセントの精留エチルアルコール」と記しています。この高純度化の過程で、原料由来の成分の多くが取り除かれていきます。
活性炭で濾過してクリーンに
高純度のアルコールに水を加えて度数を調整したあと、活性炭などで濾過します。日本では「白樺の炭(白樺活性炭)で濾過する」と説明されることが多く、これはロシアや北欧で古くから伝わる技法とされます。ただし実際には白樺以外の活性炭や各種の濾材も広く使われるため、正確には「白樺活性炭などで濾過する」と幅を持たせて理解しておくとよいです。この濾過で、風味を損なう微量成分を吸着して取り除き、いっそうクリーンな仕上がりにします。
「無味無臭」を目指した設計
こうして高純度の蒸留と濾過を重ねることで、原料由来の成分の多くが削られ、クセの少ない、無味無臭に近い一本になります。かつてアメリカの規制では、ウォッカを「際立った特徴・香り・味・色を持たないもの」と定義していたほどです(この定義は後に改訂されました。くわしくは次の章で触れます)。この徹底したニュートラルさそのものが、ウォッカの個性だと言えます。
発祥は東欧
ウォッカの発祥は東欧で、ポーランドとロシアのあいだで諸説があります。「ウォッカ」という語の世界最古の文献記録は、1405年のポーランド・サンドミェシュ地方の裁判記録にあるとされ、当初は薬用や化粧用の文脈で使われていたようです。一方ロシアも、15世紀のライ麦を原料とした蒸留酒などを根拠に、自国起源を主張してきました。両国はこの発明の栄誉を長く争ってきた歴史があり、どちらが元祖かは今も決着していません。初めての方は、ポーランドとロシアで諸説あり、とだけ知っておけば大丈夫です。
語源については、ロシア語の「水」を意味する語の指小形で、直訳すると「小さな水」の意味だとする説が広く語られます。ラテン語の「命の水」に由来し、やがて「水」の部分が残ってウォッカになった、という説明もありますが、こちらは有力な説のひとつです。
日本ではスピリッツ
日本の酒税法では、ウォッカは「スピリッツ」に分類されます。スピリッツとは、蒸留酒のうちウイスキー・ブランデー・焼酎・原料用アルコールを除いた、エキス分が2度未満のものを指します。ジンやラムも同じスピリッツで、ウォッカを加えたこの仲間は、日本ではひとまとめの区分として扱われます。日本洋酒酒造組合も、ウォッカを「穀類やイモ類を原料に糖化・発酵・蒸溜し、得られたスピリッツを白樺炭で濾過した蒸溜酒」と説明しています。
アルコール度数は40パーセント前後が主流です。1890年代以降、標準的なウォッカは40パーセント(アメリカのプルーフ表記で80)とされ、各メーカーは高純度のアルコールを水で割って40度前後に調整しています。なお度数の下限は、ヨーロッパ連合で37.5パーセント、アメリカで40パーセントと法律で定められていますが、これは海外の基準で、日本の酒税法にウォッカ固有の度数下限があるわけではありません。市場には40から60度の製品のほか、ポーランドの「スピリタス」のように90度を超える高度数品も存在します。
02 ・ HOW IT IS MADE
「無味無臭」の実際
ウォッカのクリアさは、大きく2つの工程から生まれます。連続式蒸留で純度を高め、活性炭濾過でクセを削ります。香りや味を「足す」のではなく「引いていく」、いわば引き算の技術です。19世紀後半にこの連続式蒸留機と活性炭濾過が広まる前は、ウォッカも単式蒸留器で造られていて、今ほど無味無臭には近づけませんでした。
回数競争は、おもに売り文句
ウォッカのボトルには、「○回蒸留」「○回濾過」といった表示をよく見かけます。プレミアムを名乗る製品ほど、この数字を強調しがちです。ただ、この回数の多さが、そのまま品質の高さを表すわけではありません。あるマスターディスティラー(蒸留の責任者)は、蒸留回数の表示を売り込みのためのギミックだと語っています。連続式蒸留器の内部にある棚段(プレート)を1枚通過するたびを1回と数えれば、「数百回蒸留」といった表示もできてしまうからです。
実際には、3回ほどきちんと蒸留すれば、残る不純物は人が感じ取れる閾値を下回るとされ、それ以上は主に口当たりや揮発感に影響するだけだと言われます。むしろ蒸留しすぎると、味が平板で空っぽになってしまうこともあるそうです。大事なのは回数そのものよりも、作り手の技術と原料、そして蒸留の最初と最後をどこで切り分けるかの精度です。「○回蒸留」の数字は、まずは売り文句のひとつと考えれば十分です。
原料による、微妙な表情
ウォッカは無個性を目指すお酒ですが、飲み比べると、原料によってわずかな違いが感じられます。この違いは、はっきりした「風味」よりも、テクスチャー(口当たり)にいちばん強く出ると言われます。英語圏の蒸留所や専門メディアでは、おおむね次のように語られます。
- 小麦: ソフトでなめらか、軽くやや甘い。シルキーで清潔な余韻。
- ライ麦: ボディがしっかりして、シナモンや黒胡椒を思わせるスパイス感。ドライでクリスプな後味。
- ジャガイモ: 穀物より密度が高く、自然な甘みとオイリー(口を覆うような)な食感。まろやかで厚みがある。
- 大麦・トウモロコシ: 大麦はパンのような甘みとナッツ感、トウモロコシはやや甘い印象。
ただし、この差の大きさには見解の幅があります。日本語の一般的な解説では「クセがなく無味無臭に近く、原料ごとの風味の違いもほとんどない」と書かれることもあります。ウイスキーやワインほど原料差が前面に出るわけではないけれど、注意して飲み比べれば分かる、という程度です。実銘柄でいえば、ジャガイモを使ったショパンは、なめらかで厚みのある口当たりが特徴で、穀物系の軽く清潔な口当たりとよい対照になります。
公式定義すら「無個性」を外した
「ウォッカは無味だ」という通説は、じつは半分は神話だという見方があります。象徴的なのが、アメリカの規制の変化です。かつてアメリカの担当当局は、ウォッカを「炭などで処理し、際立った特徴・香り・味・色を持たないもの」と定義していました。ところが2020年4月2日の最終規則で、この「際立った特徴を持たない」という要件を撤廃しました。原料や風味の多様性を踏まえると、その定義はもはや消費者の実感を反映していないと判断されたためです。
完全な中性を達成するのは、実は難しいことです。ごく微量のエステルやアルデヒド、脂肪酸が口当たりに影響し、シルキーな粘りやわずかな刺激、オイリーな後味となって残ります。飲み比べると、それぞれのウォッカにわずかな個性の違いが見つかります。ある専門ガイドは、有名銘柄に黒胡椒のヒリつきや、フェンネル・柑橘のかすかな香りを感じ取れるとしています。さらに面白いのは、目隠しで飲み比べる評価では、有名な高級ウォッカが必ずしも中級品を上回らないことがしばしばある、という点です。だからこそ、値段や評判にとらわれず、自分の舌で確かめる飲み比べに意味があります。
03 ・ ORIGINS AND BRANDS
主な産地とブランド
ウォッカは今や世界中で造られていますが、その心臓部は東欧と北欧です。この地域を語るときによく使われるのが「ウォッカベルト」という言葉です。
ウォッカベルトという文化圏
ウォッカベルトとは、ウォッカが伝統的な国民酒になっている一帯を指す言葉です。ベラルーシ、エストニア、フィンランド、アイスランド、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、ポーランド、ロシア、スウェーデン、ウクライナといった国々が含まれます。この地域は寒冷でブドウの栽培が難しく、その代わりに穀物やジャガイモを蒸留する文化が根づいた、という気候的な背景があります。
面白いことに、近年はこのウォッカベルトでも、ビールに主役の座を譲りつつあります。ポーランドでは1998年に、ビールがウォッカを抜いて最も人気のあるアルコール飲料になりました。国民酒といえども、時代とともに飲まれ方は移り変わっていくものです。
フレーバードウォッカという伝統
ウォッカには、フルーツや香草を漬け込んだフレーバードウォッカという一群があります。これは東欧で数世紀前から続く古い伝統に根ざしたもので、かつては品質の粗さを香りで隠す目的もあったとされますが、今では味わいの幅を広げる方向に発展しています。近年は柑橘やベリー、バニラやキャラメルのような甘い系から、胡椒のようなスパイシー系まで、実にさまざまです。
代表格が、ポーランドのズブロッカです。ライ麦を蒸留したウォッカに、ポーランド東部ビャウォヴィエジャの森で手摘みされるバイソングラス(バイソン草)を漬け込み、1本ごとに草の葉が入っています。名前は「バイソン(ポーランド語でズブル)」に由来し、日本では桜餅のような香りと表現されることが多い一本です。なお本来のズブロッカは、バイソングラスに含まれるクマリンという成分を理由に、アメリカで1978年から長らく輸入禁止でした。2010年末に、クマリンを除いた改良レシピでアメリカ市場へ再登場しています。
西側のプレミアムウォッカ
20世紀後半以降は、ウォッカベルトの外からも上質なプレミアムウォッカが数多く登場しました。産地と原料の違いを知っておくと、ラベルの見え方が変わってきます。
- グレイグース(フランス): フランス・ピカルディ地方の冬小麦100パーセントを使い、コニャック地方の水で仕込みます。1997年にアメリカで発売された比較的新しい高級ブランドです。
- ベルヴェデール(ポーランド): ポーランド産のライ麦を使うスーパープレミアム。名はワルシャワのベルヴェデール宮殿に由来します。ライ麦らしいキャラクターで、小麦系と好対照です。
- ケテルワン(オランダ): 1691年創業のノレット蒸留所が造ります。欧州の冬小麦を使い、伝統的な銅製ポットスチルを併用するのが特徴です。「ケテル」はオランダ語でポットスチルの意味です。
- アブソルート(スウェーデン): スウェーデン南部オースフス産の冬小麦を使い、連続式蒸留で仕上げます。創業は1879年ですが、現在の象徴的な薬瓶型のボトルと広告は、1979年の現行ブランド展開以降に生まれたもので、いまや世界を象徴する一本です。
このほか、ウクライナも有力な生産国で、ネミロフやホルティツァといった大ブランドがあります。ロシア発祥のブランドも多く、たとえばストリチナヤは、名前こそロシアを象徴していますが、西側で流通する製品はラトビアで製造されているなど、産地と資本の関係が複雑なものもあります。産地を一言で決めつけにくいのも、世界に広がったウォッカならではです。
04 ・ HOW TO DRINK
飲み方
ウォッカの飲み方は、大きく2つの世界に分かれます。ひとつは本場・東欧のストレート文化、もうひとつは世界に広まったカクテル文化です。両方を知っておくと、一本を何倍も楽しめます。
東欧では冷やしたストレートを料理と一緒に
ウォッカベルトの東欧・北欧では、ウォッカは水や氷、ミキサーで割らずにストレートで飲むのが伝統です。英語版ウィキペディアも、これらの地域では「割らずに、しばしば冷凍庫で冷やして供される」と記しています。40度のウォッカはおよそマイナス27度前後まで凍らないため、マイナス18度前後の家庭用冷凍庫に入れてもボトルごとは凍りません。よく冷やすと、とろりとまろやかな口当たりになると評判です。
もっとも、冷凍庫で冷やすのが唯一の正解というわけでもありません。あるロシア人バーテンダーは、凍らせるのは必ずしも伝統ではなく、冷凍よりも冷蔵庫での冷やしをすすめています。極端に冷やしすぎると喉を焼くから、というのがその理由です。冷凍でキリッと、あるいは冷蔵でほどよく。これは好みで選んで大丈夫です。
そして本場でいちばん大事にされるのが、料理と一緒に飲むことです。ロシアではザクスキ(小皿の前菜の数々)、ポーランドではニシンなど脂ののった料理を合わせます。空腹のまま飲まないのが鉄則で、あるバーテンダーは「食事は必ず酒に伴わせる」とまで言います。飲み方も、大きなグラスで一気にあおるのではなく、25ミリリットルほどの小さな注ぎで、意味のある乾杯とともに少量ずつ味わうのが本流です。
カクテルの万能ベース
ウォッカが世界で愛される大きな理由が、そのニュートラルさゆえのカクテルベースとしての万能さです。主張が少ないぶん、フルーツジュースやリキュール、ビターズなど、幅広い素材とよく合います。アメリカでは、その無味無臭を逆手に取って「あらゆるカクテルに混ぜられるミキサー」として売り出され、一気に普及しました。代表的なものを挙げておきます(起源には諸説あります)。
- モスコミュール: ウォッカにジンジャービアとライムを合わせ、銅製のマグで供する一杯。1941年にロサンゼルスで生まれたと伝わり、アメリカでのウォッカ普及の起爆剤のひとつとされます。
- ブラッディ・マリー: 原型はウォッカとトマトジュースというシンプルな配合。のちにスパイスやウスターソースなどが加わり、現在のスパイシーな形に発展しました。
- ソルティ・ドッグ: グラスの縁を塩で飾り、ウォッカとグレープフルーツジュースを合わせます。塩をつけない版が「グレイハウンド」です。
- スクリュードライバー: ウォッカとオレンジジュース。中東で働いていたアメリカの石油労働者が、工具のドライバーでかき混ぜたことが名の由来という逸話があります。
- ウォッカ・マティーニ: ジンの代わりにウォッカで作るマティーニ。映画のジェームズ・ボンドの名台詞「ステアせずシェイクで」でよく知られます。ただし小説では、ボンドがウォッカ・マティーニを頼むのは3作目からで、はじめからウォッカ一辺倒だったわけではありません。
- コスモポリタン: ウォッカ(シトロン)にオレンジリキュール、ライム、クランベリーを合わせたピンク色の一杯。1980年代から90年代に生まれ、テレビドラマをきっかけに大流行しました。考案者には複数の説があります。
度数が高いので適量を
ウォッカは度数が40度前後と高いお酒です。同じ一杯でも、割り方で体感の強さは大きく変わります。ストレートなら40度、ロックで25から30度ほど、モスコミュールで10度前後、ウォッカトニックなら6から8度あたりが目安です。ストレートで飲むなら、少量をゆっくりが基本になります。
厚生労働省の目安では、「節度ある適度な飲酒」は純アルコールでおよそ20グラム1日とされています。純アルコール量は「量(ミリリットル)かける度数わる100かける0.8」で計算でき、40度のウォッカならおよそ60ミリリットル(30ミリリットルを2杯)で20グラムほどになります。ショット1杯30ミリリットルで、純アルコールはおよそ10グラムです。おいしいお酒だからこそ、量は控えめに、料理と一緒にゆっくり楽しんでください。
05 ・ EIGHT BOTTLES
最初に飲み比べたいウォッカ8本
ここからは、最初の一歩におすすめしたい実在の8本です。すべて日本で買えるものを選びました。飲み比べの軸は2つ。ひとつは原料の違い(穀物か、ジャガイモか、フレーバードか)、もうひとつは価格帯の幅です。無味と言われるお酒でも、並べて飲むと口当たりや余韻に確かな違いがあります。度数や容量、価格は時期や販売店で変わることがあるので、詳しくは各メーカーや販売店の案内をご確認ください。
- ウヰルキンソン ウオッカ: アサヒが手がける国産ウォッカで、ニッカが製造しています。トウモロコシと大麦を原料に、白樺炭でじっくり濾過してクリアに仕上げた一本。手ごろな価格で、40度と50度の2種類があります。国産・穀物系・エントリー価格帯の基準となる、最初の一本におすすめです。
- スミノフ: 世界でも指折りの販売量を誇る定番の穀物ウォッカ。穀物を原料に、蒸留のあと白樺炭などで濾過したクリアなタイプで、代表銘柄は40度です。日本でも広く手に入り、価格も手ごろ。カクテルの土台としても万能で、飲み比べの基準にしやすい一本です。
- アブソルート: スウェーデン南部オースフス産の冬小麦を使うプレミアム。種まきから瓶詰めまでを狭い地域内で行う、地産地消の造りが特徴です。40度で、小麦系の標準的なプレミアムの位置づけ。フレーバー版も複数あり、世界を象徴するブランドの一本です。
- ケテルワン: オランダの1691年創業ノレット蒸留所が造る、欧州の冬小麦100パーセントのウォッカ。連続式蒸留に加えて銅製のポットスチルを併用する、伝統的な造りが持ち味です。40度。なめらかで清潔な小麦系の味わいを知りたいときに。
- グレイグース: フランス・ピカルディ地方の冬小麦100パーセントを、コニャック地方の水で仕込むプレミアム。40度で、飲み比べのなかでは高価格帯の枠になります。同じ小麦系でも、価格帯によって口当たりがどう変わるかを確かめるのに向いています。
- ベルヴェデール: ポーランド産のライ麦を使うスーパープレミアム。40度。小麦系のグレイグースやケテルワンと並べると、ライ麦らしいしっかりしたキャラクターの違いがよく分かります。原料の個性を感じたいときの一本です。
- ズブロッカ: ポーランドの代表的なフレーバードウォッカ。ライ麦ベースのウォッカにバイソングラスを漬け込み、1本ごとに草の葉が入っています。日本で流通する正規品は37.5度で、桜餅を思わせる甘く華やかな香りが名物です。無味とは対極の、香りを楽しむウォッカとして飲み比べに彩りを添えます。
- ストリチナヤ: 小麦とライ麦をブレンドした穀物系の伝統派で、多段の蒸留と濾過を重ねた一本。ソ連時代を象徴するウォッカとして知られます。単一穀物ではなくブレンドならではのバランスを味わえる枠として、飲み比べの幅を広げてくれます。なお産地・資本の事情が近年変動しているので、購入時に取り扱いを確認しておくと安心です。
まずは穀物系の定番(スミノフやウヰルキンソン)と、ジャガイモ原料の一本、そしてフレーバードのズブロッカを並べてみてください。ジャガイモ原料の代表としては、ポーランドのショパン(ポテト)が手に入れば理想的で、穀物系との口当たりの違いがくっきり分かります。無味と言われるお酒のなかに、これだけの表情の幅があります。そこから小麦系を価格帯で縦に比べていくと、ウォッカの奥行きがつかめます。
おわりに
ウォッカは、香りや味をできるだけ削ぎ落として、透明でクリーンな一本を目指す、引き算のお酒です。無味無臭と言われますが、完全な無個性ではなく、原料や造りによって口当たりにわずかな表情が残ります。値段や評判より、自分の舌で確かめる飲み比べに意味があるお酒でもあります。
まずは穀物系の手ごろな一本を、よく冷やしてストレートで。あるいは料理と一緒に、少量ずつゆっくりと。そのうえでジャガイモやフレーバードの一本を並べてみてください。気に入った銘柄や、飲み比べて感じた違いは、ぜひ酒記に記録しておきましょう。あとで見返すと、自分の好みの輪郭がはっきりしてきて、次の一本選びがもっと楽しくなります。
よくある質問(FAQ)
ウォッカは本当に無味無臭なのですか
「無味無臭に近い」という設計思想で造られていますが、完全な無個性ではありません。かつてアメリカの規制はウォッカを「際立った特徴を持たないもの」と定義していましたが、2020年に原料や風味の多様性を理由にその要件を撤廃しました。飲み比べると、原料や造りによって口当たりや余韻にわずかな違いが感じられます。
「○回蒸留」と書かれたウォッカほど高品質なのですか
必ずしもそうとは言えません。蒸留回数の表示はおもに売り文句で、品質の直接の目印ではないとされます。3回ほどきちんと蒸留すれば残る不純物はほとんど感じ取れなくなり、それ以上は主に口当たりに影響するくらいだと言われます。回数の数字よりも、原料や作り手の技術に注目するのがよいです。
原料によって味は変わりますか
はっきりした風味というより、口当たり(テクスチャー)に微妙な差が出ると言われます。おおまかには、小麦はソフトでなめらか、ライ麦はスパイシーでドライ、ジャガイモはまろやかでオイリー、という傾向です。ただしウイスキーやワインほど原料差が前面に出るわけではないので、注意して飲み比べると分かる程度、と考えておくと安心です。
ウォッカは冷凍庫で冷やして飲むべきですか
東欧では、割らずに冷やしたストレートで飲む伝統があります。40度のウォッカは家庭用冷凍庫では凍らず、よく冷やすととろりとまろやかになります。ただし冷凍が唯一の正解ではなく、冷やしすぎると喉を焼くとして、冷蔵庫での冷やしをすすめる声もあります。好みで選んでよく、いずれの場合も料理と一緒に少量ずつがおすすめです。
初めての1本は、どれから始めればいいですか
まずは穀物系の手ごろな定番(スミノフやウヰルキンソン ウオッカ)から始めるのがおすすめです。クリアで素直な味わいで、ウォッカの基本がよく分かります。慣れてきたら、ジャガイモ原料の一本やフレーバードのズブロッカを並べて、口当たりや香りの違いを楽しんでみてください。度数が高いので、適量をゆっくりどうぞ。
主な参考・出典
- ウィキペディア英語版「Vodka」「Alcohol preferences in Europe」「Zubrowka」「Grey Goose」「Belvedere Vodka」「Ketel One」「Absolut Vodka」「Smirnoff」「Stolichnaya」「Shaken, not stirred」「Cosmopolitan」各項目
- ウィキペディア日本語版「ウォッカ」「スミノフ」「グレイグース」各項目
- 国税庁「酒税法における酒類の分類及び定義」/日本洋酒酒造組合「スピリッツ(ジン・ウオッカ・ラム)」/酒類総合研究所の資料
- 厚生労働省「節度ある適度な飲酒」および飲酒に関するガイドライン
- アメリカ連邦当局(TTB)2020年最終規則の解説(法律事務所解説・専門メディア)
- 各種ウォッカ専門解説(蒸留・濾過の技術解説、飲み方ガイド、ブランド解説)およびカクテル事典
- 各ブランド公式・輸入元の商品情報(スミノフ/アブソルート/グレイグース/ケテルワン/ベルヴェデール/ズブロッカ/ストリチナヤ/ウヰルキンソン ウオッカ ほか)
本記事は確認できた事実をもとにまとめた一般的な入門情報です。発祥や語源、カクテルの起源にまつわるエピソード、味わいの表現には諸説・幅があります。銘柄の仕様や輸入元、度数、価格は時期により変わることがあります。お酒は20歳になってから、適量を楽しみましょう。