OTHER ・ 入門
「その他」のお酒入門
分類の外にある、知られざる個性派たち
OTHER / 約11分で読めます / 2026
酒記のカテゴリは全部で18あります。日本酒やウイスキー、ワイン、ジンなど、名前を聞けばおおよその姿が浮かぶお酒が並ぶなかで、いちばん最後に控えているのが「その他」です。ここに集まるのは、17の分類のどれにもきれいには収まらないお酒たちです。りんごから生まれる発泡性のお酒、北欧の食卓を支える香草の蒸留酒、かつて「緑の妖精」と呼ばれたお酒などが、この棚に並びます。名前も産地もばらばらですが、どれも土地の暮らしや歴史とつながった、確かな個性を持っています。
本記事では、そうしたお酒を一つずつ紹介します。知らなかっただけで、世界にはまだ、こんな飲み物があります。産地の暮らしや歴史とともに、その素顔を順番に見ていきます。
本記事は確認できた事実を土台に、通説と史実を分けて書いています。数値はおおよその目安として示し、産地や製法は公的な資料やメーカーの情報をもとにまとめました。はっきり確かめきれていないことは「〜と言われる」と控えめに記しています。
01 ・ WHAT IS OTHER
「その他」って、どんなお酒
酒記の18カテゴリのうち、17は名前のついたジャンルです。日本酒、ウイスキー、ワイン、スパークリングワイン、ジン、ウォッカ、ビール、発泡酒、焼酎、泡盛、リキュール、梅酒や和リキュール、チューハイやサワー、ラム、テキーラ、メスカル、ブランデー。その17のどれにもあてはまらないお酒が入ってくる場所が「その他」です。
受け皿と聞くと、余りものを集めた棚のように思えるかもしれません。けれども中身はむしろ逆で、はっきりした出自と個性を持ったお酒ばかりです。フランスやスペインのりんごのお酒、南米のブドウの蒸留酒、中国の穀物の蒸留酒、そして熊本の古い製法で造られる赤酒まで、産地も原料も飲み方もまったく違うお酒が同居しています。
この記事では、そのなかでも出会いやすく、飲み比べると面白い代表格を取り上げます。まずはりんごから生まれるシードル、次に北欧のアクアビット、そして数々の伝説をまとったアブサンを紹介します。さらに世界に目を広げて、ピスコ、中国の白酒、アラック、赤酒まで足を延ばします。「その他」という名前の奥に、これだけ豊かな世界が広がっていることを感じてもらえたら嬉しいです。
The Others
この記事で会う、六つの個性派
| お酒 | どんなもの |
| シードルCider | りんごを発酵させた醸造酒。多くは発泡で、辛口から甘口まで。度数は3〜8度ほど。 |
| アクアビットAquavit | 北欧の蒸留酒。キャラウェイやディルで香り付け。よく冷やして、脂の料理と。 |
| アブサンAbsinthe | ニガヨモギなど香草の高度数スピリッツ。水で割ると白く濁る(ルーシュ)。 |
| ピスコPisco | ペルーやチリの、ブドウから造る蒸留酒。 |
| 白酒(バイジュウ)Baijiu | 高粱(コーリャン)などを原料にした、中国の蒸留酒。 |
| 赤酒Akazake | 熊本の灰持酒。祝いの席や料理に使う、まろやかで甘みのある酒。 |
名前も産地もばらばらですが、どれも土地の暮らしと結びついた個性派です。
02 ・ CIDER
シードル(りんごのお酒)
シードルは、りんごを砕いて搾った果汁を発酵させて造る醸造酒です。ワインがぶどうから造られるのに対し、シードルの原料はりんごです。ワインやビールと同じ「発酵させて造るお酒」の仲間で、蒸留はしません。発泡性のものが主流ですが、泡のないスティルタイプもあります。フランス語ではシードル、英語ではサイダー、スペイン語ではシドラと呼び、どれも同じ「りんごの醸造酒」を指します。英語の「サイダー」は、日本で炭酸飲料を指す「サイダー」とは別の飲み物です。
アルコール度数はおおむね3〜8度ほどで、ワインの約10〜14度より低く、ビールに近い軽さです。栓を開けてそのまま飲め、食前でも食事と合わせても気軽に楽しめる位置づけのお酒です。
甘口と辛口は「発酵をどこまで進めるか」で決まる
フランスのシードルは、甘辛でおおきく3段階に分かれます。辛口がブリュット、中間がドゥミセック、甘口がドゥーです。目安として、ブリュットは残糖が1リットルあたり28グラム未満でアルコール4.5度以上、ドゥーは残糖が35グラムを超えて度数は3度以下とされますが、細かな数値は造り手によって前後します。
甘辛の差を生むのは、発酵の進み具合です。発酵は糖をアルコールと炭酸ガスに変える働きなので、途中で止めれば糖が残って甘口になり、最後まで進めれば糖が少なく辛口になります。フランスの甘口では、果汁の栄養分をあらかじめ減らして酵母の働きを自然に弱め、糖を残す「キーヴィング」という伝統技法が使われることもあると言われます。
本場はノルマンディーとブルターニュ
世界的なシードルの二大産地は、フランス北西部のノルマンディー地方とブルターニュ地方です。どちらもりんご栽培が盛んで、シードルを蒸留したりんごのブランデー「カルヴァドス」の産地としても知られています。ブルターニュでは、シードルをそば粉のガレットと合わせるのが定番だそうです。フランスにはワインと同じように産地で守られたシードルがあり、1990年代からノルマンディーとブルターニュのシードルが地理的表示に、さらに厳しい原産地呼称としてノルマンディーのペイ・ドージュやブルターニュのコルヌアイユが認められています。
本場のシードルづくりでは、生食用とは別の醸造専用りんごを使います。甘味・酸味・渋み(タンニン)のバランスをもとに、甘味、酸味、苦甘、苦酸の4系統に分類し、複数の品種をブレンドするのが伝統です。そのまま食べてもおいしくないほど渋みや苦みの強い専用品種を、果汁の質のためにわざわざ育てています。
イギリスでは「サイダー」と呼び、サマセットやデヴォンなど西部(ウェストカントリー)が本場です。タンニンの強い専用りんごを高い比率で使い、超辛口から中甘口まで幅広く造ります。同じ英国でも、東部のケントやイーストアングリアでは生食・料理用のりんごを多く使い、澄んで軽い、ワインに近い口当たりになりやすいと言われます。スペイン北部のアストゥリアス地方には、炭酸を加えずに造る、黄緑がかったにごりのある辛口「シドラ・ナチュラル」があります。瓶を頭上高く掲げてグラスへ細く注ぐ「エスカンシアール」という作法で知られ、空気を含ませて香りや口当たりを引き立てるためと言われています。このアストゥリアスのシードル文化は、2024年12月にユネスコの無形文化遺産に登録されました。
日本のシードルと、酒税法の話
日本一のりんご産地は青森県で、農林水産省の令和6年産統計では全国収穫量の約60.8パーセントを占めています。2位は長野県で約17パーセントです。国産シードルの多くも、この二大産地で造られています。青森では、アサヒビール(ニッカウヰスキー)が弘前で造る国産りんご100パーセントの発泡シードルが代表格で、非加熱のシードルは1985年に発売され、1988年に全国へ広がりました。長野も醸造所が集まる一大集積地で、ふじや紅玉といったりんごを使い分けて辛口や甘口を造っています。
日本の酒税法では、りんご果汁を発酵させただけのシードルは、ぶどうのワインと同じ「果実酒」という品目に当たります。ただし、発泡性でアルコール分が10度未満のものは、課税上の区分では「その他の発泡性酒類」として扱われます。中身の品目はワインと同じ果実酒でも、発泡性で度数が低いために税制上の区分は別枠になるという二段構えです。資料によって書き方が揺れやすいので、品目(果実酒)と課税区分(その他の発泡性酒類)を分けて覚えておくと混乱しません。
03 ・ AQUAVIT
アクアビット(北欧の香草蒸留酒)
アクアビットは、北欧(スカンジナビア)で15世紀から造られてきた蒸留酒です。穀物やジャガイモを原料にしたアルコールを、キャラウェイ(ヒメウイキョウ)やディルの種子で香り付けするのが定義の核になります。ヨーロッパ連合の酒類規則ではきちんとしたカテゴリーとして定義されていて、支配的な香りはキャラウェイまたはディルの種子に由来しなければならず、精油の使用は禁じられています。最低アルコール度数は37.5度で、市販の標準は40度前後が多くなっています。
名前の由来は、ラテン語のアクア・ヴィテで、意味は「命の水」です。ウイスキーやブランデーの古い呼び名と同じ発想で、中世ヨーロッパで蒸留酒を指した言葉になります。呼び名や綴りは国によって少しずつ違いますが、どれも同じお酒を指します。文献に残る最古の記録は1531年で、ノルウェーの城主が大司教に宛てて「あらゆる病に効く」薬としてサンプルを送った、という手紙です。もともとは薬用の万能薬として広まったお酒でした。
色は無色透明のものから、淡い麦わら色や黄金色までさまざまです。オーク樽で熟成させると色が付きます。ノルウェーのアクアビットはジャガイモを主原料にして樽熟成させるのが伝統で、法律で一定期間の熟成が求められています。
冷やして、脂の料理と、掛け声は「スコール」
伝統的な飲み方は、よく冷やして小さなショットグラスに注ぎ、一口で飲み干すスタイルです。合わせるのは、ニシンの酢漬け、ザリガニ、脂の多い肉料理といった、塩気や脂の強い料理です。キャラウェイの清涼感が脂を切ってくれます。クリスマスのご馳走や夏至祭、スモーガスボードといった祝いの食卓の定番で、スウェーデンでは8月下旬に屋外でザリガニを食べる「ザリガニパーティー」の主役にもなります。
乾杯の掛け声は「スコール」です。テーブルの全員と一人ひとり目を合わせ、飲み終えるまで視線を外さないのが敬意を示す作法とされています。「スコールは敵の頭蓋骨で酒を飲んだのが語源」という話がありますが、これは俗説です。正しくは古ノルド語で「椀」を意味する言葉が語源で、宴で木の椀にビールを満たして回し飲みした慣習に由来します。頭蓋骨で飲んだ証拠となる出土品はなく、17世紀の詩の誤訳から広まった作り話と考えられています。スウェーデンでは、ショットを飲む前に短くユーモラスな酒の歌を皆で歌う習慣もあります。
代表的な銘柄をいくつか挙げると、デンマークの国民的な一本がオールボーで、1846年に確立されました。看板商品はキャラウェイ主体の無色透明タイプです。ノルウェーには、シェリーの空き樽に詰めた酒を貨物船の甲板に積んで赤道を2回越えさせる「船旅熟成」で知られるリニエがあります。スウェーデンには、キャラウェイにアニスやフェンネルを加えたオーピー・アンダーソンが1891年から続いています。
04 ・ ABSINTHE
アブサン(緑の妖精)
アブサンは、ニガヨモギ(ワームウッド)にアニスやフェンネルなどの香草を合わせて蒸留した、香草系のお酒です。起源は18世紀末のスイス・ヌーシャテル地方で、もとは薬用のエリキシルとして生まれました。フランス人医師ピエール・オルディネールが関わったとされますが、発明者については諸説あります。1805年にペルノー・フィス社がフランス東部で商業的な蒸留を始めました。鮮やかな緑色から「緑の妖精」と呼ばれ、19世紀のパリでは夕方にアブサンを飲む時間帯を「緑の時間」と呼ぶほど、ボヘミアン文化の象徴になりました。
度数は非常に高く、伝統的なフランス・スイス式で概ね45〜74度です。もっと高い製品もありますが、いずれにしてもストレートで飲む酒ではなく、水で薄めて飲むのが前提です。主役となる香草はニガヨモギ、グリーンアニス、フローレンス・フェンネルの3種で、「三位一体(ホーリー・トリニティ)」と呼ばれます。
ルーシュ、白く濁る不思議
伝統的な飲み方はルーシュです。グラスにアブサンを注ぎ、穴あきスプーンに角砂糖をのせ、その上から氷水をゆっくり垂らします。アブサン1に対して水を3〜5杯ほど加えるのが標準で、正確に垂らすためのアブサン・ファウンテンという水差しも使われました。たっぷりの水で薄めることで、度数の高いお酒がゆっくりと開いていきます。
水を加えると、透きとおっていた液体が乳白色に濁ります。これは「ウーゾ効果」という物理現象です。アルコールには溶けるものの水には溶けにくいアニス由来の精油成分が、水を加えることで細かな油滴になって分離し、その油滴が光を散らして白く見えます。ウーゾやパスティス、後で紹介するアラックなど、アニス系のお酒に共通する現象で、味というより見た目の楽しみのひとつです。なお、アブサンに浸した角砂糖に火をつけるパフォーマンスを見かけることがありますが、あれは1990年代に生まれた演出で、19世紀フランスの伝統ではありません。本来のフランス式は、火を使わず冷水を垂らすルーシュです。
「幻覚が見える」は、はっきり俗説
アブサンには「飲むと幻覚が見える」「緑の妖精が見える」というロマンチックな物語がついて回りますが、これは近代の化学分析と薬理研究によって否定された俗説です。かつてはニガヨモギに含まれるツヨンという成分が幻覚や発狂の原因とされました。きっかけは1975年に、ツヨンと大麻の成分の分子の形が似ていると指摘されたことでした。しかし1999年の研究で、ツヨンは大麻が働きかける受容体にはほとんど作用しないと分かっています。飲酒で摂取する程度の量では、幻覚は起こりません。
さらに、禁止前の古いアブサンを実際に分析した研究では、かつて言われた強烈なツヨン濃度は誇張で、多くが現代の基準内に収まっていたことが分かっています。19世紀に語られた「アブサン中毒」という独立した病気も、実際には重い慢性のアルコール依存によるもので、アブサン特有のものではなかったと結論づけられています。ツヨンの害とは別に、当時の粗悪な安物には、緑色付けや白濁の演出のために硫酸銅やアンチモンといった有害な物質が混ぜられた例もありました。当時の害の一部は、アブサンという酒そのものではなく、こうした不純物と大量のアルコールに由来していました。
それでもアブサンは20世紀初頭に各国で次々と禁止されました。引き金になったのは1905年のスイスの「ランフレー事件」で、ある男性が家族を殺害した事件です。当日、彼はワインやコニャックなど大量の酒を飲んでおり、アブサンは2杯だけでしたが、事件は「アブサンのせい」と大きく報じられました。禁止の本当の背景には、アブサンを競合とみなしたワイン業界や、当時の禁酒運動と道徳的なパニックがありました。つまり禁止は、科学というより政治的な理由によるものでした。ベルギーやブラジルが1906年、アメリカが1912年、フランスは第一次大戦の混乱期にあたる1914〜15年に禁じました。
その後、規制の枠組みが整い、アブサンは復活します。ヨーロッパ連合では1988年に事実上再び認められ、2000年にはフランスで久しぶりの自国製アブサンが登場し、アメリカも2007年に約95年ぶりに解禁されました。現在はツヨンの上限が定められた基準のなかで合法に造られ、流通しています。歴史的な名門はペルノー・フィスで、現代ではルシッド、セント・ジョージ、ラ・フェ、スイスのキュブラーなどが代表格です。
05 ・ WORLD
まだある、世界の個性派
「その他」の棚は、まだまだ奥が深いです。ここからは、南米、中国、中東やアジア、そして日本の熊本まで、旅をするように4つのお酒をのぞいてみます。
ピスコ(ブドウの蒸留酒)
ピスコは、ペルーとチリのワイン産地で造られるブドウの蒸留酒です。16世紀にスペインの植民者が、本国から輸入していたブランデーの代わりに造り始めたのが起源とされます。ブドウの果汁を発酵させてから蒸留するので、どの品種を使うかで香りや色が大きく変わるのが個性です。有名なカクテル「ピスコサワー」のベースでもあります。
同じピスコでも、ペルーとチリでは造りの思想が違います。ペルーのピスコは原産地呼称で厳しく規定され、産地は5つの県に限られ、使えるブドウは8品種と決まっています。ブドウ本来の香りを残すために木樽での熟成は禁止され、蒸留後に水を加えずそのまま瓶詰めします。一方のチリは規定がゆるやかで、瓶詰め前に加水して度数を調整でき、木樽での熟成も認められています。ペルー式は香りがピュアで、チリ式は滑らかで穏やかです。飲み比べると、この違いがよく分かります。さらにペルーには「モスト・ヴェルデ」という高級製法があり、発酵が終わりきる前、糖分がまだ残る段階で蒸留します。糖をすべてアルコールに変えないぶん、多くのブドウを使う濃厚で華やかな味に仕上がります。
中国の白酒(バイジュウ)
白酒は、高粱(コーリャン)やトウモロコシなどの穀物を原料にした中国の蒸留酒です。度数は30〜60度と高く、なかには70度級もあります。無色透明なので「白酒」と呼ばれ、世界でも最大級の消費量を誇るお酒とされます。最大の特徴は「固体発酵」で、もろみが液体ではなく、味噌のような固形の状態です。土の中に掘った発酵槽に、麹にあたる「曲(チュー)」を加えた原料を埋めて発酵させます。
白酒は香りの系統「香型(シャンシン)」で分類され、代表的な三大香型があります。醤(味噌や醤油)を思わせる複雑で重厚な醤香型は、貴州の茅台酒(マオタイ)が代表で、標準度数は53度です。華やかで濃厚、中国でもっとも普及しているのが濃香型で、四川の五粮液(ウーリャンイエ)が代表です。すっきりドライでクリーンな清香型は、山西の汾酒が知られています。飲み比べるなら、香型ごとに一本ずつ選ぶと違いがくっきり分かります。
アラック(同じ名前で、じつは別物)
アラックは注意が必要なお酒です。同じ「アラック」という呼び名でも、地域によって中身がまったく違います。中近東(レバノンやシリアなど)のアラックは、多くがアニスで香り付けされていて、水を注ぐと白く濁ります。これはアブサンと同じルーシュの現象です。語源はアラビア語で「汗」を意味し、蒸留器から滴るしずくを汗にたとえた言葉です。日本にも江戸時代に長崎経由で伝わり、「阿剌吉(あらき)」と呼ばれました。
一方、南アジアや東南アジアのアラックは、米の醸造酒やヤシの花序から採る樹液、サトウキビの糖蜜などを蒸留したもので、アニスは使わないことが多くなります。インドネシアのジャワ島で造られるバタビア・アラックは、サトウキビ糖蜜に発酵させたジャワ米を少量加えるのが特徴で、製法としてはラムに近く、かつてはヨーロッパで熟成・ブレンドされて広まりました。飲み比べるときは、「中東のアニス系」と「アジアのヤシ・糖蜜系」を混同しないのがコツです。
赤酒(熊本の灰持酒)
最後は日本のお酒です。赤酒は、熊本に伝わる「灰持酒(あくもちざけ)」の代表格です。米を原料に清酒と同じように仕込み、もろみに木灰を入れて酸を中和し、保存性を高めます。清酒が火入れ殺菌で保存性を持たせる「火持(ひもち)」なのに対して、灰で保存性を持たせるので「灰持」と呼ばれます。灰で酸を中和する結果、お酒としては珍しい中性から微アルカリ性になります。名前は、灰やカラメル化で赤褐色になることに由来すると言われます。酒税法の上では雑酒に分類され、アルコール分は約12度です。
熊本では、正月にお屠蘇(とそ)として飲む祝い酒として親しまれ、同時に料理酒としても重宝されます。微アルカリ性のため、肉や魚のたんぱく質を固めずふっくら仕上げ、照りやコクを与えます。みりんに似ていますが、みりんにはないアルカリ寄りの性質が珍しく、全国のプロの板場でも調味酒として使われています。
06 ・ EIGHT BOTTLES
見つけたら試したい8本
ここまで紹介してきた個性派を、実際に手に取れる形でまとめます。日本で買える実在の銘柄から、種類を散らして8本を選びました。すべて「その他」カテゴリのお酒です。泡から始めて蒸留酒へ、最後は日本の赤酒で締めくくります。この順番で飲み比べると、いろいろな国のお酒を少しずつ味わえます。
- 函館ななえシードル(シードル)。北海道・七飯町のりんごから、はこだてわいんが造る発泡シードルです。国産シードルの泡から入りたいなら、最初の一本にどうぞ。度数は8度前後です。
- クール ド リヨン シードル ブリュット(フランスの辛口シードル)。ノルマンディーで自社のりんご園を持つ造り手による、本場のブリュットです。度数は4.5度ほどで、りんごの香りと辛口の骨格を確かめられます。
- オールボー タッフェル アクアヴィット(アクアビット)。デンマークの国民的な一本で、キャラウェイ主体の無色透明タイプです。よく冷やして、脂や塩気の強い料理と合わせてショットでどうぞ。
- キュブラー ヴィンテージアブサン ヴェルト(アブサン)。スイス産の緑のアブサンです。冷水をゆっくり垂らして白く濁るルーシュを体験するのに向いています。度数が高いので、必ず水で薄めてください。
- ペールケルマン アブサン ブラック(アブサン)。フランス産の、緑ではなく黒いアブサンです。60度と非常に高いので、こちらも必ず水で薄めてください。緑と黒、二本を並べると色の違いも楽しめます。
- ピスコ ポルトン モストベルデ アチョラード(ピスコ)。ペルーの高級製法モスト・ヴェルデで造る、無加水・樽熟なしのブドウ蒸留酒です。度数は43度です。ピスコサワーのベースにもなります。
- 五粮液(中国の白酒)。四川の濃香型を代表する銘柄で、華やかで濃厚な香りが持ち味です。度数が高いので、ロックや水割りで少しずつどうぞ。
- 千代の園 極上赤酒(赤酒)。熊本の灰持酒です。ほんのり甘く、正月のお屠蘇や料理にも使える、珍しい微アルカリ性のお酒です。アルコール分は約12度です。
在庫や取り扱いは時期によって変わります。度数や甘辛の表記もリニューアルで変わることがあるので、買うときはラベルを確かめてみてください。
おわりに
「その他」という名前は、じつはいちばん自由な棚の名前です。決まった枠に収まらないからこそ、産地の暮らしや長い歴史がそのまま瓶に詰まっています。シードルもアクアビットもアブサンも、そして熊本の赤酒も、いつもの一杯から少し足を伸ばせば出会えるお酒です。
気になった一本を飲んだら、ぜひ酒記に記録を残してみてください。どんな香りがしたか、何と合わせたか、甘口か辛口か。ひとことでもかまいません。あなたの記録は、同じお酒を選ぶ人の参考になります。気軽に一言、残してみてください。
よくある質問
「その他」のお酒に、共通した味の傾向はありますか。
ひとつの傾向でまとめるのは難しいです。りんごのシードル、香草のアクアビットやアブサン、ブドウのピスコ、穀物の白酒、米の赤酒と、原料も製法もばらばらだからです。むしろ「一括りにできない個性の集まり」と考えると、選ぶのが楽しくなります。
アブサンを飲むと幻覚が見えるというのは本当ですか。
俗説です。ニガヨモギに含まれるツヨンが原因とされましたが、近代の化学分析と薬理研究で否定されています。飲酒で摂取する程度の量では幻覚は起こりません。ただし度数は45〜74度ほどと非常に高いので、必ず水で薄め、酔いには十分に気をつけてください。
シードルは甘口と辛口、どちらから始めるのがいいですか。
りんごの果実感をやさしく楽しみたいなら甘口のドゥー、食事と合わせてすっきり飲みたいなら辛口のブリュットがおすすめです。度数はおおむね3〜8度とワインより低めなので、どちらも入りやすいお酒です。両方を飲み比べると、発酵の進み具合で味が変わる面白さが分かります。
アクアビットの乾杯「スコール」で気をつけることはありますか。
テーブルの全員と一人ひとり目を合わせ、飲み終えるまで視線を外さないのが北欧の作法とされています。よく「スコールは頭蓋骨で飲んだのが語源」と言われますが、これは誤りで、正しくは古ノルド語で「椀」を意味する言葉に由来します。
中東の「アラック」とアジアの「アラック」は同じお酒ですか。
名前は同じでも別物です。中東のアラックはアニスで香り付けされ、水を注ぐと白く濁ります。南アジアや東南アジアのアラックは、米やヤシの樹液、サトウキビの糖蜜などから造られ、アニスは使わないことが多くなります。買うときは産地を確かめると混同しません。
主な参考・出典
- 国税庁「酒税法における酒類の分類及び定義」
- 農林水産省「令和6年産りんごの収穫量及び出荷量」/農林水産省 にっぽん伝統食図鑑「赤酒」
- ユネスコ無形文化遺産 公式ページ「アストゥリアスのシードル文化」(案件番号01959)
- ヨーロッパ連合規則 2019/787(酒類の定義・表示に関する規則)
- ウィキペディア各項目「シードル」「Cider in the United Kingdom」「Akvavit」「Absinthe」「Ouzo effect」「Jean Lanfray」「ピスコ」「Pisco」「アラック」
- エノテカ「シードルとは」/三越伊勢丹FOODIE「りんごの発泡酒シードルとは」/French Libation「French Cider Guide」
- Meschler・Howlett 1999(ツヨンとカンナビノイド受容体の研究)/J. Agric. Food Chem.「Chemical Composition of Vintage Preban Absinthe」/NCBI・PMC「Absinthism: a fictitious 19th century syndrome」
- アサヒビール 商品情報「ニッカ弘前 生シードル」/Go! NAGANO 長野県公式観光サイト
- The Whisky Exchange「What is pisco?」/MOSTO-VERDE TOKYO/たのしいお酒.jp「ピスコ」
- 乾杯白酒/知味葡萄酒「白酒香型」/日和商事
- 瑞鷹「灰持酒(赤酒)」/千代の園酒造 ウェブショップ/各販売サイト(実在・日本流通の確認)
本記事は事実の確認に努めていますが、度数・製法・在庫・法制度は変更されることがあります。銘柄はいずれも執筆時点で日本国内での取り扱いを確認したものです。表示や取り扱いは購入時にご確認ください。お酒は20歳になってから、適量を楽しみましょう。