SAKE ・ ラベルの数字
日本酒度と酸度で、甘辛と味の濃さが見える
ラベルの「日本酒度+5」「酸度1.4」は何のことか。この数字が読めると、飲む前に甘辛と味の濃さが見えてきます。
SAKE / 約12分で読めます / 2026
日本酒の裏ラベルを見ると、「日本酒度+5」「酸度1.4」といった小さな数字が並んでいることがあります。多くの人は、ここをなんとなく飛ばして、銘柄名と値段だけで選んでいると思います。もったいない話です。この二つの数字は、飲む前に味の見当をつけるための、手軽な手がかりになるからです。
まず押さえたいのは、二つの数字の役割です。日本酒度で「甘いか辛いか」の方向、酸度で「淡麗(あっさり)か濃醇(しっかり)か」を読み取れるようになります。この二つが分かると、棚の前でラベルを見ただけで、すっきりした辛口なのか、甘くてコクのありそうな味なのか、当たりをつけられるようになります。おまけとして、アミノ酸度・精米歩合・アルコール度数という三つの数字の見方もあわせて紹介します。
ひとつだけ先にお断りしておきます。数字は味を完全に言い当てる魔法ではありません。本記事は確認できた事実を土台にして、確証の取れない通説は「〜とされる」と書き分けています。甘辛の区分の数値や平均値は、業界で広く使われる目安であって、法律で決められた公式の基準ではありません。数字はあくまで当たりをつけるための道具で、最終的な判断は自分の味覚に委ねられます。この前提で読み進めてください。
01 ・ SMV
日本酒度とは(甘辛の方向を示す矢印)
日本酒度は、日本酒の比重(水と比べたときの重さ)を数値にしたものです。基準になるのは、摂氏4度の純水と同じ重さ(比重1.0)で、これを±0とします。測り方は、摂氏15度の清酒に日本酒度計(浮ひょう。うきばかりとも呼ばれます)を浮かべて、目盛りを読みます。要するに、酒が水より軽いか重いかを目盛りにした道具です。
方向は、こう覚えると分かりやすいです。糖分などのエキス分が多い酒は液が重くなり、日本酒度はマイナス(甘口寄り)に振れます。逆に、発酵が進んで糖がアルコールに変わり、糖分の少ない酒は液が軽くなって、プラス(辛口寄り)に振れます。ざっくり言えば、マイナスが甘い側、プラスが辛い側、0付近が真ん中です。まずはこれだけ押さえれば十分です。
もう少し細かい目安として、次のような区分がよく使われます。同じアルコール度数で比べたときの、おおよその物差しです。
- -6.0以下あたり=大甘口
- -3.5〜-5.9あたり=甘口
- -1.5〜-3.4あたり=やや甘口
- -1.4〜+1.4あたり=普通(中庸)
- +1.5〜+3.4あたり=やや辛口
- +3.5〜+5.9あたり=辛口
- +6.0以上あたり=大辛口(+10前後を超えると超辛口と呼ばれることも)
ただし、この境界の数字は資料によって幅があり、絶対的な基準ではありません。中庸を「±0」とするものも、「-1.4〜+1.4」とするものもあって、統一されていません。あくまで目安の一つとして受け取ってください。市販されている清酒の日本酒度は、平均するとおおむね0〜+5付近に集まっていて、業界の平均例では一般酒で+3.7、吟醸酒で+4.3、純米酒で+4.0あたりとされます。近ごろの日本酒は、少しプラス(辛口)寄りに落ち着いているわけです。
「日本酒度が高い=辛い」とは限らない
ここが最も誤解されやすいところです。日本酒度はあくまで比重(糖分の目安)であって、飲んだときの甘辛そのものではありません。同じ日本酒度でも、このあと説明する酸度が高いと甘みが打ち消されて辛く濃く感じますし、酸度が低いと甘く淡麗に感じます。さらに、香りが高い酒はやや辛く感じやすく、苦味や渋味、炭酸のガス感が多いほど辛口寄りに感じるなど、体感は複数の要素で動きます。
たとえるなら、日本酒度は甘辛の「方向を示す矢印」で、その強さを決めるハンドルの一つが酸度、という関係です。矢印の向き(プラスかマイナスか)はおおむね正しいのですが、「プラスなら必ず辛い」と断定はできません。長年飲み慣れたベテランでも、酒の温度や、きき酒の直前に食べた物によって甘辛の感じ方は変わるので、味覚だけできっちり判別するのは難しいとされます。日本酒度は、あくまで最初の見当をつけるための目安として考えてください。
細かい話をすると、比重との関係は日本酒度=(1/比重−1)×1443という式で表されます(国税庁の分析法に基づく定義)。また、基準はあくまで4度の純水なので、同じ純水でも15度になると温度でわずかに膨張して軽くなり、日本酒度は±0ではなく+1.26になります。ここは厳密な定義の世界の話なので、味を選ぶときは「糖分が多いほどマイナス、少ないほどプラス」とだけ覚えておけば困りません。
02 ・ ACIDITY
酸度とは(味の濃さとキレの目盛り)
酸度は、日本酒に含まれる有機酸(乳酸・コハク酸・リンゴ酸・クエン酸など)の量を、相対的に示した数値です。ここでまず外してほしくない点があります。酸度は「すっぱさ」そのものではありません。日本酒の世界では、味の濃さやキレ(引き締まり)の指標として扱われます。おおまかには、酸度が高いほど辛く濃く(濃醇に)、低いほど甘く淡麗に感じられる、というのが基本の見方です。
なぜ「すっぱさ」とずれるのかというと、酸味は甘みと打ち消し合う性質があるからです。甘みが強い酒(日本酒度が大きくマイナスの酒)は、酸度が高くても酸っぱさを感じにくくなります。逆に糖の少ない酒は、同じ酸度でも酸味が立って感じられます。そのため酸度の数字は、あくまで分析上の酸の総量であって、口に入れたときの酸っぱさとは別物として考えてください。
数字の測り方も、実はきちんと決まっています。国税庁の所定分析法では、清酒10ミリリットルに0.1モル毎リットルの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ加えて中和し(この操作を中和滴定と呼びます)、pH7.2になったところを終点として、そこまでに使った水酸化ナトリウムの量(ミリリットル数)を酸度とします。単位の付かない相対的な数値として表示される、というわけです。
酸の種類でも印象は変わる
同じ酸度でも、どの有機酸が多いかで味の印象は変わります。日本酒に多い四つの酸には、それぞれ性格があります。
- 乳酸=ふくよかで丸みのある酸味。
- コハク酸=深みやコクをもたらす、苦味・渋味を含んだ酸味(貝類の旨み成分としても知られます)。
- リンゴ酸=すっきり爽やかで、白ワインに近い酸味。
- クエン酸=シャープで爽快な酸味。
酸度の全国的な平均は、おおむね1.2〜1.5前後とされ、実際の幅はおよそ0.5〜3.0程度です。1.0以下なら柔らかく軽快、1.5を超えるとしっかりした骨格や余韻を感じやすい、という業界的な目安があります。低いほど淡麗、高いほど濃醇・芳醇、というイメージです。ただし平均値も幅も出典によって少しずつ違うので、「だいたいこのあたりが真ん中」という程度に使うのが安全です。
日本酒度と組み合わせると、味のタイプが見える
日本酒度と酸度を組み合わせると、甘辛だけでなく「あっさりか、しっかりか」まで想像できます。日本酒度が甘辛の軸、酸度が濃淡(とキレ)の軸になっていて、味わいをおおまかに四つのタイプに分けられます。
- 淡麗辛口=日本酒度がプラスで、酸度は低め。すっきりと切れる辛口。
- 淡麗甘口=日本酒度がマイナスで、酸度は低め。軽やかで柔らかな甘口。
- 濃醇辛口=日本酒度がプラスで、酸度は高め。しっかりとキレる辛口。
- 濃醇甘口=日本酒度がマイナスで、酸度は高め。コクのある甘口。
この四つに分ける図は、味わいの見当をつけるのにとても便利です。ただし、これも法律や業界の公式区分ではなく、あくまでおおまかな傾向を示す目安の図です。境界になる日本酒度や酸度の具体的な値は、媒体ごとにばらつきます。「だいたいどの象限に落ちそうか」を当てる道具として使うのが、ちょうどいい距離感です。
03 ・ MORE NUMBERS
アミノ酸度・精米歩合・度数の見方
日本酒度と酸度が読めれば、もう味の半分は見えています。ここからは、味の想像をさらに立体的にしてくれる三つの数字を、手短に紹介します。アミノ酸度・精米歩合・アルコール度数です。
アミノ酸度=コクと旨みの厚み
アミノ酸度は、コクや旨みのもとになるアミノ酸(アルギニンやグルタミン酸など約20種類)の量を、相対的に示した数値です。高いほど濃醇でコクがあり、低いほど淡麗ですっきりします。日本酒度・酸度と並ぶ「味の厚み(ボディ)」の軸として考えてください。標準的な日本酒はおおむね1.0強〜2.0弱程度で、鑑評会向けの出品酒やそれに近い吟醸系は1.0を下回ることもあります(雑味が少なくクリア)。種類別の平均例では、普通酒・本醸造酒が約1.3、吟醸酒が約1.4、純米酒が約1.6とされ、米だけで造る純米系はやや高め(コク寄り)の傾向です。ただしこの平均は酒販店ブログなどによる目安で、公的な統計ではありません。
ひとつ注意です。アミノ酸度が高い酒を「甘口」と説明するサイトもありますが、アミノ酸がもたらすのは糖分由来の甘みそのものではなく、旨み・コクです。甘辛の主役はあくまで日本酒度と酸度で、アミノ酸度は「濃いか淡いか(厚みがあるか)」を見る補助の軸、と分けて考えるほうが正確です。しかも旨みは多ければ良いというものでもなく、高すぎると雑味やエグ味につながって重く感じることもあります。
精米歩合=どれだけ米を磨いたか
精米歩合は、玄米に対する精米後の白米の重量の割合を%で表したものです。ここで初心者がいちばんつまずくので、はっきり書いておきます。数字が小さいほど、よく磨いている(たくさん削っている)という、直感と逆の関係です。たとえば精米歩合60%とは、玄米の表層部を40%削り取り、残った内側の60%(=白米)を使う、という意味になります。
米の表層部には、たんぱく質・脂肪・灰分・ビタミンなどが多く、これが多すぎると雑味のもとになります。そこを削ることで、すっきりクリアな味わいになりやすく、脂質が減ることで果実のような華やかな香りも立ちやすくなります。逆に、あまり削らない(精米歩合が高い)ものは、旨みや甘みをしっかり感じる濃醇な方向に振れやすくなります。数字が小さい=華やか・すっきり、数字が大きい=コク・濃醇、と覚えておくと迷いません。
なお、特定名称酒(吟醸酒・純米酒・本醸造酒など)の精米歩合は、国税庁の「清酒の製法品質表示基準」で決まっています。吟醸酒・純米吟醸酒は60%以下、大吟醸酒・純米大吟醸酒は50%以下、本醸造酒は70%以下です。特定名称を名乗る清酒は、この精米歩合をラベルに表示する義務があるので、どれだけ磨いた酒かを読み取る手がかりになります。また、純米酒は、かつて「70%以下」という規定がありましたが、2004年(平成16年)施行の改正で撤廃されました。今は精米歩合80%や90%の純米酒もあります。参考までに、一般家庭で食べる米の精米歩合は92%程度で、清酒の原料米は75%以下が多く用いられます。
アルコール度数=原酒か、加水か
日本酒(清酒)は、酒税法でアルコール分22度未満と定められています(米・米こうじ・水などを発酵させて「こす」ことも定義の要件です)。市販の一般的な日本酒は、おおよそ15〜16度程度で、ビール(約5%)やワイン(約12〜14%)に比べると高めです。
実は、発酵が終わった直後(もろみ)の日本酒は、20度前後まで度数が上がっています。多くの酒は、香味を整えるためにここへ水を加えて(加水して)15〜16度ほどに調整してから出荷されます。いっぽう、アルコール分1%未満のわずかな調整を除き、ほとんど加水しないのが「原酒」です。原酒はそのぶん度数が高め(18〜20度前後)で、味わいも濃厚になりやすい傾向があります。ラベルに「原酒」とあれば、しっかり飲みごたえのあるタイプと見当がつきます。近年は逆に、13〜14度、さらにはビール並みの5%前後といった低アルコールの日本酒も増えていて、度数が低いほど軽くて飲みやすい傾向があります。
最後に大事な補足です。精米歩合(特定名称酒)とアルコール分は、ラベルへの表示が義務ですが、日本酒度・酸度・アミノ酸度は任意表示です。そのため、これらが書かれていない商品も少なくありません。載っていないときは、裏ラベルや蔵の商品ページを見ると、書いてあることが多いです。
04 ・ READ
数字の組み合わせで味を予想する
ここまでの数字を、実際にラベルの前で使う手順に落とし込みます。難しく考えず、上から順に見ていくだけです。
- ①日本酒度の符号で、甘辛の当たりをつけます。マイナスなら甘い側、プラスなら辛い側、0付近なら真ん中です。
- ②酸度で、淡麗か濃醇か、キレるかを補正します。1.0前後なら軽やか、1.5を超えるならしっかりめです。
- ③アミノ酸度があれば、コクの厚みを足します。高ければ濃厚、低ければすっきりです。
- ④あとは実際に飲んで、自分の体感とのズレを確かめます。ここが最も大切です。
たとえば「日本酒度+5・酸度1.0」なら、すっきり切れる淡麗辛口と読めます。「日本酒度-30・酸度2.0」なら、コクのある濃醇甘口です。慣れてくると、ラベルの二つの数字を見ただけで、飲む前に味の見当がつくようになります。
数字と体感がズレることもある
ただし、数字と実際の感じ方がずれることは珍しくありません。よく知られた例が、精米歩合を高く磨いた華やかな吟醸系です。日本酒度がプラス(数値上は辛口寄り)でも、米由来の繊細な甘みや華やかな吟醸香のせいで「甘い」「やさしい」と感じる人が多い酒があります。これは、香りや米の甘みといった、日本酒度には出ない要素が効いているためです。こうした理由から、数字は当たりをつける道具と割り切って、最後は自分の舌で確かめるのがおすすめです。
もう少し踏み込みたい人のために補足します。日本酒度と酸度から、味わいを計算する式も研究されています。酒類総合研究所(旧・国税庁醸造試験所)の佐藤信博士らが提唱したもので、甘辛度=193593/(1443+日本酒度)−1.16×酸度−132.57、濃淡度=94545/(1443+日本酒度)+1.88×酸度−68.54という式です。甘辛度は高いほど甘口、濃淡度は高いほど濃醇を示します。この式の上でも、酸度が上がると甘辛度が下がって(辛くなり)、濃淡度が上がる(濃くなる)ことが確認できます。近年はさらに、酸度とグルコース(糖の一種)を使う新しい甘辛表示の考え方も提案されています。とはいえ、日常の一杯を選ぶだけなら、式は覚えなくて大丈夫です。日本酒度と酸度の二つを見れば、型はだいたい読めます。
最後にひとつ、言葉の整理を。「甘口/辛口」「淡麗/濃醇」「日本酒度」「酸度」「アミノ酸度」は、どれも法律で定義された表示用語ではなく、任意の表示です。酒税法や表示基準がきちんと定義・規制しているのは、「吟醸酒/純米酒/本醸造酒」といった特定名称や、原材料名・アルコール分などのほうです。そのため「この制度で甘口と決まっている」という話ではなく、これらの数字や区分は業界で共有されている便利な目安として受け取るのが正確です。
05 ・ EIGHT BOTTLES
甘辛と濃淡が分かる飲み比べ8本
ここまでの話を実際に確かめるために、実在する定番8本を選びました。左から右へ進むほど辛口から甘口へ、上から下へ進むほど淡麗から濃醇へ、というイメージで並べています。順に飲むと、日本酒度と酸度の違いが、そのまま味の違いとして体で分かります。数値は各蔵や流通元の公表値をもとにしていますが、ロットや商品によって差が出ることがあるので、参考として見てください。どれも2026年時点で、酒販店やスーパー、通販などで手に入る定番です。
- 清酒 八海山(八海醸造・新潟/普通酒・精米歩合60%・アルコール15.5%)=日本酒度+5.0、酸度1.1、アミノ酸度1.1。淡麗辛口の教科書のような一本です。プラスの日本酒度に低い酸度・低いアミノ酸度がそろい、淡麗で後味もすっきりしています。料理の邪魔をしない、飲み比べの基準点として使いやすい国民的銘柄です。
- 久保田 千寿(朝日酒造・新潟/吟醸・原料米 五百万石・アルコール15%)=日本酒度+5、酸度1.1。久保田シリーズの中でも日本酒度が高く、すっきりとした辛口です。数値は辛口寄りですが、繊細な余韻とほのかな甘み、米の旨みと酸もあり、食中酒として料理に寄り添います。八海山と並べると、同じ淡麗辛口でも吟醸香や飲み口が違うことが分かります。
- 上善如水 純米吟醸(白瀧酒造・新潟/精米歩合55%・アルコール14%)=日本酒度+4、酸度1.3。「じょうぜんみずのごとし」の名のとおり、水のように軽快な飲み口です。数値上は淡麗辛口寄りですが、フレッシュな果実様の香りと純米のまろやかな旨みで、初心者にもやさしい入口になります。湯豆腐や天ぷら、魚の塩焼きなど、あっさりした料理とよく合います。
- 獺祭 純米大吟醸45(旭酒造・山口/山田錦を精米歩合45%まで磨く・アルコール約16%)=旭酒造は日本酒度・酸度を公式には公表していません。二次情報では日本酒度+3前後、酸度1.5前後と言われます。数値と体感がズレる好例です。二次情報の数字の上では辛口寄りなのに、米由来の繊細な甘みと華やかな吟醸香で「甘い」「華やか」と感じる人が多い酒です。「数字だけで決めつけない」を教えてくれる一本で、全国のスーパーや百貨店で入手しやすいのも利点です。
- 天狗舞 山廃仕込純米酒(車多酒造・石川/アルコール約15度台)=日本酒度+3、酸度1.9。濃醇辛口(旨口)の代表です。プラスの日本酒度に高い酸度が組み合わさり、山廃仕込み由来の濃厚な旨みとコクが力強く広がります。山吹色の色調で、ぬる燗も映えます。淡麗辛口の八海山・久保田と並べると、同じ辛口でも濃さがまるで違うことがはっきり分かります。
- 黒松剣菱(剣菱酒造・兵庫/精米歩合70〜75%・アルコール17%)=日本酒度おおむね0〜+1、酸度1.6、アミノ酸度2.4。日本酒度はほぼ中庸なのに、高い酸度と平均をかなり上回るアミノ酸度2.4のおかげで、味わい豊かで旨みたっぷりの濃醇酒になっています。アミノ酸度という第三の軸が効く例です。あまり削らない米と高いアミノ酸度が、灘らしい重厚な旨みを生みます(数値は酒販情報によるもので、商品により差があります)。
- 大関 極上の甘口(大関・兵庫/アルコール10%)=日本酒度-50、酸度2.3。濃醇甘口の分かりやすい極端例です。通常の約1.4倍の米で仕込んで米の甘みを引き出した超甘口ですが、高めの酸のおかげで後口はさっぱりします。日本酒度-50はかなり稀な甘さで、焼肉やハンバーグ、刺身、サラダ、イタリアンなど幅広い料理に合わせやすく、スーパーやコンビニでも手に入る手軽さも魅力です。
- 一ノ蔵 ひめぜん(一ノ蔵・宮城/アルコール8%)=甘酸っぱい極甘口の低アルコール酒です。公式流通の日本名門酒会の公表値では日本酒度-70〜-60、酸度4.8〜5.2とされます(出典により数値に幅があるため、ここは参考値です)。理屈の上では濃醇甘口ですが、度数が8%と軽いので、白ワインのような甘酸っぱさと軽快さが前に出ます。1988年発売の、低アルコール日本酒の草分けです。数字の型と体感のギャップを味わえる一本です。
飲み方の提案です。全部を一度にそろえると高くつくので、まずは対比のはっきりする組み合わせから始めるのがおすすめです。たとえば八海山(淡麗辛口)と天狗舞 山廃(濃醇辛口)を並べれば「同じ辛口でも濃さが違う」ことが、八海山と大関 極上の甘口を並べれば「日本酒度の+と-でこんなに甘辛が違う」ことが、一口で分かります。気になった一本は、そのまま酒記に記録して、自分の反応を残していけます。なお度数や精米歩合、日本酒度・酸度は改定されることがあるので、購入時は各社の最新表示で確認してください。
おわりに
日本酒度と酸度は、難しい暗号ではありません。日本酒度は甘辛の方向を示す目安で(-が甘い、+が辛い)、酸度は味の濃さとキレの目盛りです(高いほど濃く辛口寄り、低いほど淡麗で甘口寄り)。この二つを合わせて読むだけで、淡麗辛口から濃醇甘口まで、味のタイプの見当がつくようになります。裏ラベルの小さな数字が、銘柄選びの手がかりになってくれるはずです。
そのうえで、忘れないでほしいことがあります。数字はあくまで目安で、実際の味は香りや温度、合わせる料理、その日の体調でも変わります。数字と自分の感じ方がずれたときこそ、面白いところです。「日本酒度はプラスなのに、自分には甘く感じた」という発見を重ねるほど、自分の好みの傾向がつかめてきます。
飲んだ一本を、ぜひ酒記に記録してみてください。銘柄と、分かれば日本酒度・酸度、そしてその日に感じたことを一言で大丈夫です。記録がたまってくると、「自分は酸度低めの淡麗辛口が好きらしい」「濃醇甘口は食後にちょうどいい」といった、自分だけの傾向が見えてきます。次の一本を選ぶとき、その手がかりが特に役立ちます。
よくある質問(FAQ)
日本酒度がプラスなら、必ず辛口ですか?
いいえ、必ずではありません。日本酒度は比重(糖分の目安)で、プラスは辛口寄りの「方向」を示します。ただし体感の甘辛は、酸度・アミノ酸度・アルコール度数・温度・香りでも変わるため、数字だけで甘辛は決まりません。国税庁が定めた公式の甘辛区分でもないので、あくまで方向の目安として受け取るのがちょうどよいです。
酸度が高いお酒は、酸っぱいのですか?
酸っぱいとは限りません。酸度は分析上の有機酸の総量で、日本酒の世界では味の濃さやキレの指標として使われます。甘みは酸味と打ち消し合うため、甘い酒は酸度が高くても酸っぱさを感じにくく、糖の少ない酒は同じ酸度でも酸味が立って感じられます。「酸っぱさ」ではなく「味の輪郭やキレ」の目盛りと考えてください。
日本酒度や酸度が、ラベルに書かれていません。なぜですか?
日本酒度・酸度・アミノ酸度は、表示が任意とされているためです。ラベルに表示する義務があるのは、アルコール分と、特定名称酒の精米歩合などで、甘辛の数字は義務ではありません。載っていないときは、裏ラベルや蔵の商品ページに書かれていることが多いので、そちらを確認してみてください。
精米歩合の数字は、小さいほど良いお酒ですか?
数字が小さいほど米を多く磨いています(雑味が減り、香りが立ちやすい方向)。ただし「良い=小さい」ではありません。表層部は雑味のもとになりやすい一方で、旨みのもとにもなり、あえて磨きを抑えて米の旨みを活かす酒もあります。精米歩合は品質の順位ではなく、味の方向性を示す目安です。
数字を見れば、味は完全に分かりますか?
完全には分かりません。日本酒度と酸度はあくまで目安で、実際の味は、合わせる肴やその日の気分によっても変わります。数値上は辛口でも、香りや米の甘みで甘く感じる酒もあります。数字で見当をつけ、最後は実際に飲んで確かめるのがおすすめです。
主な参考・出典
- 国税庁「清酒の製法品質表示基準」の概要(精米歩合・特定名称・原酒の定義・表示事項)/国税庁 所定分析法(酸度の中和滴定・日本酒度の定義)
- 酒類総合研究所「清酒の甘辛区分表示について」(甘辛度・濃淡度の式、新しい甘辛表示の考え方、日本醸造協会誌)
- 月桂冠「日本酒度・酸度・アミノ酸度とは何を表す数値ですか?」
- 沢の鶴(澤の鶴)「酒みづき」日本酒度・酸度・アミノ酸度の解説
- SAKE Street「日本酒度とは」「日本酒の酸度を学ぶ」「精米歩合とは」「アルコール度数はどれくらい?」「日本酒ラベルの見方」
- 灘の酒用語集(日本酒度の定義・計算式)/日本酒ラボ(酸度=キレの指標)/いけのり酒店ブログ(アミノ酸度)/旭酒造 KUBOTAYA
- 日本酒造組合中央会「日本酒の分類」
- 各蔵・各社および流通元の公式情報(八海醸造、朝日酒造、白瀧酒造、旭酒造、車多酒造、剣菱酒造、大関、一ノ蔵、日本名門酒会、地酒蔵元会 ほか)
本記事の数値・銘柄情報は執筆時点(2026年)の各社・各媒体の公表値をもとにしています。日本酒度・酸度・アミノ酸度の平均値や甘辛の区分は、業界で広く使われる参考の目安で、法律で定めた公式の基準ではありません。個別銘柄の数値はロットや商品により差が出ることがあり、とくに獺祭・一ノ蔵ひめぜん・剣菱の日本酒度・酸度は、公式に非公表であったり出典によって幅があったりするため、参考値として扱っています。確認できた事実を土台にし、確証の取れない通説は「〜とされる」と書き分けています。お酒は20歳になってから、適量を楽しみましょう。