GRAPPA ・ 入門

グラッパ入門

ワインの搾りかすが生まれ変わる、イタリアの食後酒。

GRAPPA / 約11分で読めます / 2026

イタリア料理を食べ終えたころ、お店の人が「食後にグラッパはいかがですか」と小さなグラスを勧めてくれることがあります。透明なのに香りは華やかで、口に含むと強さが広がります。あれは何のお酒なのか、家でも楽しめるのか。一度は気になったことがあるかもしれません。

グラッパは、ワインを搾ったあとに残るブドウの搾りかすから造る、イタリアの蒸留酒です。もともとは捨てられていたものを生かした、質素な農家の酒でした。それが今では、品種ごとの香りを丁寧に引き出した洗練された食後酒として楽しまれています。この記事では、グラッパとは何か、どんな種類があるか、どう飲むか、そして日本で買える8本までを、順番に見ていきます。

本記事は確認できた事実を土台に書いています。EUの規則や度数はEUの一次資料(規則2019/787)や各種の解説、造りや飲み方は蒸留所や専門メディアの記事、銘柄は日本の輸入元や小売のページで裏を取りました。確証の取れない通説は「と言われる」と正直に書き分けています。イタリア語の言葉がいくつか出てきますが、読み方を添えるので身構えなくて大丈夫です。


01 ・ DEFINITION

グラッパとは何か

グラッパは、ワインを造ったあとに残るブドウの搾りかすを原料に蒸留したお酒です。この搾りかすを、イタリア語でヴィナッチャ(vinaccia)、英語ではポマースやグレープマークと呼びます。ブドウを搾ったあとに残る果皮や種、場合によっては果梗(かこう、房の枝の部分)などの固形物のことです。これを発酵させ、蒸留してアルコールを取り出します。EUの規則では、グラッパは「grape marc spirit(ブドウ搾りかす蒸留酒)」というカテゴリーに分類されます。

ブランデーとの違いは「原料」にある

よく似たお酒にブランデーがありますが、両者は原料の段階からはっきり違います。ブランデーは、発酵させたブドウの果汁、つまりワインそのものを蒸留して造ります。いっぽうグラッパは、果汁を搾り取ったあとに残る固形の搾りかすを発酵させ、蒸留します。EUの規定でも、純粋なブドウ果汁をそのまま発酵させたもの(=ブランデーの製法)は除くと明記されていて、この一点で両者は区別されます。ワインにならなかった皮や種を生かすのがグラッパ、と考えると分かりやすいです。

Grappa vs Brandy
グラッパとブランデーの違い
グラッパブランデー
原料ブドウの搾りかす(果皮・種)ブドウの果汁(ワイン)
蒸留するもの固形の搾りかす発酵した液体
産地の縛りイタリア産だけ(GI)世界各地で造られる
度数最低37.5%(多くは40〜45%)多くは40%前後
系統の近い酒フランスのマール
同じブドウのお酒でも、使う「部分」が違います。搾りかすを生かすのがグラッパです。

フランスにも搾りかすから造る同じ系統のお酒があり、「マール(marc)」と呼ばれます。ブルゴーニュの「マール・ド・ブルゴーニュ(Marc de Bourgogne)」が代表で、ピノ・ノワールやシャルドネ、アリゴテといった品種の搾りかすを使い、AOCなどで法的に保護された別のカテゴリーです。産地も名称もグラッパとは切り分けられていて、マール・ド・ブルゴーニュは搾りかす蒸留酒の「グラン・クリュ」と評されることもあります。

「グラッパ」はイタリアだけの名前

グラッパはEUの地理的表示(GI)で保護された名称で、名乗れるのは原則としてイタリアで造られたものだけです。しかも、原料のブドウもイタリアで栽培・醸造されたものであることが条件で、たとえイタリア国内で蒸留しても、外国産の搾りかすを使ったものはグラッパを名乗れません。「イタリアの搾りかすから、イタリアで造る」がグラッパの核心です。ごく一部の例外として、イタリア語圏のスイス(ティチーノ州の Grappa Ticinese など)とサンマリノでも、歴史的な経緯から認められています。

これを支える現行のEU法は、規則(EU)2019/787です。2021年に適用が始まり、それまでの規則(EC)110/2008を置き換えました。ここでグラッパは最低アルコール度数37.5%と定められ、各回の蒸留はアルコール86%未満で行うこと、最初の蒸留は搾りかすがある状態で行うこと、といった技術的な基準も決められています。なお、一部の解説は今も旧規則の番号を挙げていますが、最低度数37.5%はどちらの規則でも同じなので、度数の話としては変わりません。

度数は「最低37.5%」、実際は40%台

度数について、少し整理しておきます。37.5%はあくまでEUの法律上の下限です。実際に売られている製品は40〜45%あたりが中心で、40〜50%と紹介されることもあります。まれに60%前後の力強いものもあります。ですから、「最低は37.5%、ふつうは40%台」と押さえておくと、度数で戸惑いません。

固形物だから、直火にかけられない

グラッパの造りには、原料が固形であることからくる特徴があります。液体のワインと違い、搾りかすは焦げ付きやすく、そのまま直火にかけられません。そこで伝統的には銅製の蒸留器を使い、湯煎式(イタリア語でバニョマリア、bagnomaria)や、水蒸気を吹き込む方式で間接的に熱を加え、アルコール分を気化させてから冷やして液体に戻します。搾りかすは水で薄めず、固形のまま蒸留するのが原則です。

名前の由来には諸説あります。搾ったあとに残る果皮を指す方言「graspa(グラスパ)」から来たとする説と、中世のラテン語でブドウの房を意味した「grappolus」に由来するとする説があり、どちらもブドウの搾りかすや房に関わる言葉です。「グラッパ」という呼び名が広く公式に使われるようになったのは、20世紀に入ってからと言われます。


02 ・ TYPES

種類と造りを知る

グラッパは、熟成のさせ方と、使うブドウ品種で呼び名が変わります。ラベルの言葉が読めるようになると、選ぶのがぐっと楽になります。まずは大きく4つの言葉を覚えておけば十分です。

熟成で決まる呼び名

木樽で寝かせるかどうか、どれくらい寝かせるかで区分が分かれます。

使う木はオークだけでなく、チェリー(桜)、アカシア、栗なども用いられ、樽の違いも味わいに表れます。

品種で決まる呼び名

もう一つの軸が、使うブドウ品種です。

造りは「新鮮なうちに」がすべて

蒸留の方式は、大きく2系統あります。単式(バッチ)は、銅釜に蒸気を吹き込む水蒸気式や、湯煎式のバニョマリアなどで、一釜ずつ蒸留する職人的なやり方です。連続式は、まず「ディサルコラトーレ」という装置で搾りかすから粗い蒸留液(フレンマ、アルコール約15〜20%)を取り出し、続いて蒸留塔でグラッパ(約80〜86%)に高めます。蒸留したての液は80%を超える高い度数なので、瓶詰め前に加水して40〜50%ほどに落とすのが一般的です。

搾りかすは、赤ワイン由来か白ワイン由来かで扱いが変わります。赤ワインは果皮を果汁と一緒に発酵(醸し)させるため、搾りかすはすでにアルコールを含んだ状態で蒸留所に届き、そのまま蒸留できます。いっぽう白ワインは果汁だけを発酵させて果皮を早く分けるので、搾りかすには糖分が残った未発酵の状態で届き、蒸留所で改めて発酵させてから蒸留します。白でも果皮を漬け込む造りはあるので、これはあくまで一般的な傾向です。

どの造りでも共通して大事なのが、搾りかすを新鮮なうちに蒸留することです。搾りかすは酸化しやすく傷みやすいので、空気を遮る密閉した容器で保管し、できるだけ早く蒸留します。この鮮度が、仕上がりの品質を大きく左右すると言われます。


03 ・ HISTORY

農家の酒から、洗練の食後酒へ

グラッパは、もともと搾りかすを無駄にしないための、北イタリアの農家の酒でした。ワインを搾ったあとに捨てられる皮や種を発酵・蒸留して、強い酒を得たのが始まりとされます。書面に残る証拠は14世紀半ばまで遡り、アルプス山麓の北イタリアが発祥地と考えられていますが、蒸留そのものはもっと古くからあり、起源には諸説あります。長いあいだ、素朴で荒々しい「庶民の酒」と見られていました。

ノニーノが変えた、グラッパの地位

流れが大きく変わったのは20世紀後半です。フリウリのノニーノ家が1973年12月1日、土着品種ピコリット(Picolit)の搾りかすだけを蒸留した単一品種グラッパ「モノヴィティーニョ」を発売しました。それまで数種を混ぜるのが当たり前だったグラッパで、品種ごとの個性を表現できることを示したこの一本が、後に「グラッパ革命」と呼ばれる転機になったと言われます。以後、イタリア内外の蒸留家が単一品種づくりに続きました。

ノニーノがしたのは、搾りたての新鮮な搾りかすを使い、銅製の蒸留器で丁寧に、ゆっくりと蒸留することでした。二次発酵を防ぐために低温で保管し、香りの成分を守りながら緩やかに蒸留したのです。素朴だったグラッパが、洗練された食後酒として高く評価され、贈り物にも選ばれるようになりました。「安酒」から「高値で求められる酒」へと、評価がはっきり変わりました。

故郷バッサーノと、最古級の蒸留所ナルディーニ

グラッパの故郷として知られるのが、ヴェネト州のバッサーノ・デル・グラッパです。ブレンタ川にかかる木造の屋根付き橋で有名なこの町に、ボルトロ・ナルディーニが1779年、橋のたもとに宿と蒸留所を開きました。ナルディーニは今も子孫が経営を続ける、イタリア最古級のグラッパ生産者とされます。町の名前の「デル・グラッパ」は近くのグラッパ山にちなんで1928年に付けられたもので、それ以前は「バッサーノ・ヴェネト」という名でした。町がグラッパで有名なのは事実ですが、お酒の名前が町名から来たわけではありません。

産地は北イタリアが中心で、ヴェネトのほか、ピエモンテ、フリウリ、トレンティーノなどが知られます。1989年に当時のECが伝統的な産地を特定し、その後シチリアなどにも広がりました。近年では、2022年末から2023年にかけて、ヴェネトやピエモンテ、バローロ、フリウリなど9つの地域グラッパが、EUの地理的表示として官報に登録されています。産地名を冠したグラッパは、その土地の基準を満たす必要があります。

味わいは、透明か、琥珀色か

味わいは、熟成のあるなしで大きく分かれます。若いジョーヴァネは無色透明で、原料ブドウの華やかで力強い香りが前に出て、度数からくる張りのある余韻があります。木樽で熟成させると色づいて、バニラやスパイス、ドライフルーツ、柑橘の皮のような丸みと複雑さが加わります。

産地によっても個性が出ます。ピエモンテはネッビオーロの骨格やモスカートの花のような香り、バルベーラなどがあり、トレンティーノ・アルト・アディジェは高山的ですっきりした性格が語られます。フリウリの地理的表示「Grappa Friulana」は、最低40%で木樽熟成が求められるとされます。


04 ・ HOW TO DRINK

食後に、少しずつ楽しむ

グラッパは食後酒(イタリア語でディジェスティーヴォ)として飲まれるのが定番です。食事の締めくくりに少量を、消化を助けるように味わいます。度数が高いので、一気に飲むお酒ではなく、小さなグラスでゆっくり楽しむのが向いています。朝、エスプレッソに合わせる楽しみ方もあります。

温度とグラスの目安

温度は、タイプで変えると香りが生きます。目安として、若いものや香りの華やかなアロマティカは冷やして約9〜13℃、木樽で熟成させたものは室温より少し低い約15〜17℃くらいがよいとされます。冷やしすぎると香りが立ちにくくなるので、熟成タイプは冷やしすぎないのがコツです。これらは決まりではなく、銘柄や好みで調整して構いません。

グラスは、口がすぼまった小ぶりのチューリップ型が向いています。底が広く飲み口が狭いので、フルーティーで華やかな香りを鼻先に集めやすい形です。大きなバルーン型や細長いフルート型は避けるとよいとされます。注ぐ量はグラスを満たさず、半分ほどまでにします。香りを楽しむ空間を残し、度数も高いので、少量にとどめるのが作法です。

コーヒーと合わせる、イタリアの習慣

グラッパには、コーヒーと結びついた飲み方がいくつかあります。

カフェ・コッレットについては、コーヒーが高くついた時代に酒を足したのが始まり、という話も語られますが、はっきりした裏付けのある説ではありません。一説として楽しむくらいがちょうどよさそうです。


05 ・ EIGHT BOTTLES

日本で買える、最初の8本

ここからは、日本で手に入るグラッパを8本紹介します。無色のジョーヴァネ、単一品種のモノヴィティーニョ、香り高いアロマティカ、木樽で熟成させたインヴェッキアータが、ばらけるように選びました。まずは無色のものと熟成したものを一本ずつ飲み比べると、グラッパの幅がよく分かります。度数はラベル表記です。銘柄名は名前だけ挙げるので、気になったものを探してみてください。

8本を眺めると、同じグラッパでも造りや原料で表情がまるで違うことが分かります。無色でブドウの香りが直に立つものから、樽で何年もかけて色づいたもの、香り高い品種の個性が主役になるものまで、表情はさまざまです。まずは飲みやすい無色のジョーヴァネから始めて、気に入ったら熟成タイプへ進むのがおすすめです。


おわりに

グラッパは、ワインを搾ったあとの搾りかすから生まれる、イタリアの食後酒です。名乗れるのはイタリアで造られたものだけで、無色のジョーヴァネから木樽で熟成させたリゼルヴァまで、造りと品種で表情が変わります。飲むときは食後に少量を、タイプに合わせた温度で、口のすぼまった小ぶりのグラスに半分ほど注ぎます。これだけ押さえておけば、レストランで勧められても、家で一本開けても、迷わず楽しめます。

気になった一本を飲んだら、香りや余韻の感想を酒記に記録しておくと便利です。無色と熟成でどう違ったか、どの品種が好みだったかをメモしておくと、次に選ぶときの手がかりになります。飲み比べた記録が増えるほど、自分の好きな型が見えてきます。


よくある質問(FAQ)

グラッパとブランデーは何が違いますか。
原料が違います。ブランデーは発酵させたブドウの果汁(ワイン)を蒸留しますが、グラッパはワインを搾ったあとに残る固形の搾りかす(果皮や種)を発酵・蒸留します。同じブドウのお酒でも、使う部分が違うわけです。
グラッパはどれくらい強いお酒ですか。
EUの規則では最低37.5%と決まっていて、実際に売られているものは40〜45%あたりが中心です。まれに60%前後の力強いものもあります。度数が高いので、小さなグラスで少しずつ楽しむのが向いています。
初めて飲むなら、どのタイプがいいですか。
無色透明の「ジョーヴァネ(ビアンカ)」がおすすめです。木樽で熟成させないぶん、ブドウそのものの香りがまっすぐに出て、グラッパの素の姿が分かります。慣れてきたら、木樽で熟成させた琥珀色のインヴェッキアータに進むと、違いを楽しめます。
冷やして飲むべきですか、常温がいいですか。
タイプによります。若いものや香りの華やかなアロマティカは冷やして約9〜13℃、木樽で熟成させたものは室温より少し低い約15〜17℃くらいが目安とされます。冷やしすぎると香りが立ちにくくなるので、熟成タイプはあまり冷やしすぎないのがコツです。
グラッパとフランスのマールは同じものですか。
造り方の系統は同じ「搾りかすの蒸留酒」ですが、別のお酒として区別されます。グラッパはイタリア産だけが名乗れる名称で、フランスのものはマール(marc)と呼ばれ、ブルゴーニュのマール・ド・ブルゴーニュのようにAOCなどで保護された別のカテゴリーです。

主な参考・出典

  • EUR-Lex 規則(EU)2019/787(グラッパの定義・最低度数37.5%・蒸留の技術基準)/spirits.eu
  • Wikipedia「Grappa」(英語版・日本語版)/Wikipedia「Pomace brandy」(マール・ド・ブルゴーニュ)
  • grappa.com(イタリアとGIグラッパ/製法/地域GI登録)
  • Difford's Guide(グラッパの製法・分類とスタイル・保管と提供・産地と歴史)
  • Wine Enthusiast「Get to Know Grappa」(熟成分類・アロマティック品種)
  • Grappa Nonino 公式(モノヴィティーニョ/ノニーノ家の歴史)/モンテ物産・イタリア好き(ノニーノ)
  • Grappa Marolo(搾りかす/アロマティックグラッパ)/Poli Grappa(レゼンティン)
  • Cellar Tours/Eataly/The Italian On Tour「Grappa 101」(定義・産地・飲み方)
  • L'Italo-Americano「From rags to riches: the history of grappa」(歴史)
  • Wikipedia「Caffè corretto」/PUNCH(カフェ・コッレット、レゼンティン、アンマッツァカフェ)
  • Enoteca Ferrari/My Quality Store(提供温度・グラス・注ぐ量)
  • Braida 公式(ブリッコ・デッル・ウッチェッローネ=バルベーラ100%)/ガヤ・ナルディーニ・ポーリ・マローロ・ベルタ・カポヴィッラ 各社公式
  • 日本の輸入元・小売ページ(トスカニー/世界のワイン葡萄屋/エノテカ/モトックス/DRINK PLANET ほか)
  • たのしいお酒.jp/HOSPITALITY WINE(日本語の解説)

本記事の銘柄の度数・仕様は執筆時点(2026年)の情報です。同じ銘柄でも販売する国や時期、入荷ロットによって度数や仕様が異なる場合があります。お酒は20歳になってから、適量を楽しみましょう。

気になったグラッパを、自分の図鑑に記録しませんか。

酒記をはじめる(無料)