GIN ・ 和ジン

ジャパニーズジン、和のボタニカルが香る

柚子、山椒、緑茶、桜。日本の素材が描く、世界が注目するクラフトジンの話です。

GIN / 約12分で読めます / 2026

バーで「ジャパニーズジンをどうぞ」と出されて、ふつうのジンと何が違うのだろう、と気になったことはありませんか。柚子や山椒、緑茶といった身近な和の素材が香るジンが、いま国内外で注目を集めています。

この読み物では、そもそも和ジンとは何か、どんな和ボタニカル(香味づけの植物)が使われるのか、主な造り手、家での楽しみ方、そして最初の一本に選びやすい8本まで、順にご案内します。専門用語はできるだけかみくだいて説明しますので、ジンを飲みなれていない方も気軽に読み進めてください。

本記事は確認できた事実を土台にしています。呼び名や評価が分かれるところは「〜と言われる」と控えめに書き、はっきりしない数字や逸話は無理に断定しません。安心して読んでいただければと思います。


01 ・ WHAT

和ジンとは何か

そもそも「和ジン」や「ジャパニーズジン」とは、何を指す言葉なのでしょうか。ここには少し意外な事実があります。

実は、和ジンには法律で決まった定義や製法の基準がありません。日本の酒税法では、ジンは独立した区分ではなく「スピリッツ」に分類されます(エキス分が2度未満、といった大まかな枠だけです)。「ジャパニーズジン」「和ジン」を名乗るための公的な基準や業界の取り決めもなく、造り手や売り手が使う通称と考えるのが正確です。

参考までに、そもそもジンとは何かをおさえておきます。EUの規則(2019年に採択されたRegulation 2019/787)では、ジンは「農産物由来のアルコールをジュニパーベリー(西洋ネズの実)で香味づけし、その香りが主体であるもの」で、瓶詰め時のアルコール度数は最低37.5%と定められています。つまりジュニパーが主役、というのがジンの共通の芯です。和ジンも、そこに和素材を重ねていく点は変わりません。

比べてみると分かりやすいのがウイスキーです。ジャパニーズウイスキーには、2021年2月12日に日本洋酒酒造組合が表示の基準を定め(経過措置を経て2024年4月1日から本格適用)、原材料や日本国内での製造といった条件がつきました。一方でジンには、こうした産地や製法を縛る基準が今のところありません。だからこそ、ベースの酒やボタニカルの選び方が自由で、造り手の個性が出やすいお酒だと言えます。

火付け役は京都から

日本で本格的なクラフトジンの流れをつくったのは、京都蒸溜所とされます。日本で初めてのジン専門蒸溜所と紹介されることが多く(公的な認定ではなく、自社や複数の媒体の表現です)、2016年10月に「季の美 京都ドライジン」を発売しました。この一本が和ジンブームの火付け役、草分けと言われています。

季の美の登場後、日本酒や焼酎の蔵元がジンづくりに参入し、新しい蒸溜所が各地に増えました。日本ジン協会の調査では、2023年11月時点で国産ジンの蒸溜所は107、商品数は365に達しています。輸出も伸びていて、直近の数年で大きく拡大したと紹介されています。

参入が進んだ理由のひとつに、焼酎や泡盛の蒸留設備をそのまま活かせる点があります。米・麦・芋などの焼酎をベースにすると、麹由来のやわらかい風味がジンに乗ります。米焼酎ベースは代表的ですが、すべての和ジンが米ベースというわけではありません(たとえば後で紹介するROKUは、一般的なニュートラルスピリッツをベースにしています)。


02 ・ BOTANICALS

和ボタニカル図鑑

和ジンの主役は、なんといっても和のボタニカルです。代表的な素材を、香りの正体とあわせて見ていきます。同じ名前でも、日本の素材はヨーロッパのジンにはない表情を持っています。

Wa-Gin · Botanicals
和ジンを彩る、和のボタニカル
素材香りの正体
柚子(ゆず)花のような香りをもつ和の柑橘。主に皮の精油を使う。
山椒(さんしょう)ミカン科。しびれと、花のような柑橘の香りが同居する。
玉露・煎茶うまみとやわらかな青さ。ジュニパーや柑橘の角を丸める。
桜(さくら)花と葉を使う。クマリンによる、桜餅のような甘い香り。
檜(ヒノキ)森林浴のような、清潔感のある木の香り。
生姜・紫蘇温かなスパイス感と、ミントやバジルを思わせるハーブ感。
身近な和の素材が、飲むと確かに「日本の香り」として立ち上がる。

柚子(ゆず)

和ジンで「日本らしさ」を出す最も定番の素材が柚子です。植物としては交雑種で、イーチャンパペダという柑橘とマンダリン(みかんの仲間)が自然に掛け合わさったものとされます。中国中部が原産で、唐の時代に日本へ伝わったと言われます。

香りは、レモンやライムのような酸味に、マンダリンやグレープフルーツ、金柑の要素、そしてはっきりした花のような香りが重なります。ヨーロッパにこれと同じ柑橘がないため、飲むと一気に和の印象になります。ジンでは主に果皮(皮の精油)を使い、爽やかな柑橘香とほのかな苦味が加わります。季の美、ROKU、ニッカ カフェジンなど、代表的な和ジンの多くが柚子を使っています。

柚子は食用の柑橘で最も寒さに強いことでも知られ、マイナス7度ほどまで耐えるとされます。国内では高知が主産地です(近い仲間のすだちは徳島、かぼすは大分、シークヮーサーは沖縄が名産です)。

山椒(さんしょう)

山椒は、実は植物としてはミカン科、つまり柑橘の仲間です。黒胡椒とは別の系統で、香りに柚子やグレープフルーツを思わせる柑橘のニュアンスがあるのはそのためです。

口の中がピリピリとしびれる感覚は、辛さとは少し違います。サンショオールという成分が、痛みではなく振動を感じる触覚の神経を直接刺激して起こると言われます。唐辛子のカプサイシンが痛覚を刺激するのとは仕組みが別で、だから「辛い」よりも「しびれと花のような香り」になります。中国の花椒(四川山椒)とは近い仲間ですが別物で、日本の山椒は緑色で柑橘・レモン様の香りが強く、しびれは穏やかめとされます。

季の美は、青い実の山椒と木の芽(山椒の若葉)の両方を使い分けています。実と葉で香りの表情が違うためです。

緑茶(玉露・煎茶)

お茶の国らしく、緑茶もよく使われます。とくに玉露は、収穫前の20〜30日ほど覆いをかけて日光を遮る「被覆栽培」でつくる高級な緑茶です。遮光でうまみのもとになるテアニンが増え、渋みが抑えられるため、まろやかで濃いうまみと深い緑色になります。

玉露をジンに使うと、うまみと甘み、やわらかな青さが味の中盤に加わり、ジュニパーや柑橘の角を丸めてくれます。ROKUは煎茶と玉露の2種類を、季の美は玉露を使います。同じ緑茶でも、煎茶は爽やか、玉露はうまみ寄りで役割が違います。焙じ茶を主役にした和ジンもあり、鹿児島の小正醸造のジンは、米焼酎ベースに焙じ茶と檜を合わせています。

桜(さくら)

桜は、花と葉の両方がボタニカルになります。香りの正体はクマリンという成分で、桜餅のようなバニラや杏仁(アーモンド)を思わせる甘い香りの主因です。塩漬けにした桜の葉は、まさに桜餅の香りそのものです。

ROKUは桜の花と桜の葉を別々の素材として使い、花の甘さと葉の塩気めいたニュアンスの両方を取り込んでいます。ジンに使われるのはごく少量で、香りづけのための役割です。

檜(ヒノキ)と針葉樹

木の香りを持ち込む素材もあります。檜は日本建築で古くから珍重される木材で、清潔感のある木質の香り、森林浴のような清々しさをジンに加えます。広島の桜尾は県産のヒノキを使い、先ほどの小正のジンも檜で森の香りを強めています。

ここで一つ、よくある誤解をお伝えします。京都の季の美が土台(ベース)に使う針葉樹は、檜ではなく赤松(あかまつ)です。季の美は11種のボタニカルを6つのグループに分けていて、その「ベース」にジュニパー、オリスと並んで赤松が入ります。まとめ記事などで「季の美は檜」と書かれることがありますが、これは間違いです。針葉樹はほかにも、和歌山の槙(KOZUE)が高野槙(コウヤマキ)を主役にするなど、造り手によって選ぶ木が違います。

このほかにも、温かみのある甘くスパイシーな生姜や、ミントやバジルを思わせる紫蘇(季の美は赤紫蘇を使います)なども、和ジンの常連です。ミカン科の山椒とは違い、紫蘇はシソ科のハーブで、系統が別なのも面白いところです。


03 ・ MAKERS

主な造り手

和ジンは、意外な顔ぶれの会社がつくっています。ウイスキーやビールの大手から、焼酎蔵、薬酒メーカーまで。主な造り手を紹介します。

京都蒸溜所(季の美)

日本で初めてのジン専門蒸溜所とされる造り手です。デービッド・クロール氏らが構想し、2016年8月に酒造免許を取得、同年10月に「季の美 京都ドライジン」を発売しました。お米からつくるライススピリッツをベースに、伏見の伏流水を仕込み水に使います。11種のボタニカルを6つのグループに分けて別々に蒸溜し、あとでブレンドする丁寧な製法が特徴です。

サントリー(ROKU・翠)

大手のサントリーは、2017年に「ROKU〈六〉」を発売しました。桜花・桜葉・煎茶・玉露・山椒・柚子という日本の四季を表す和素材6種に、伝統的なボタニカル8種を合わせた計14種を使います。名前の「六」はこの和素材6種に由来し、ボトルも六角形です。アルコール度数は日本国内向けが47度、海外向けが43度と、流通する市場で異なります。

2020年には、より日常向けの「翠〈SUI〉」が加わりました。柚子・緑茶・生姜の3つの和素材を中心にした40度のジンで、食事に合わせるソーダ割りを想定した設計です。

桜尾(サクラオブルワリーアンドディスティラリー)

広島の桜尾は、1918年創業の中国醸造がつくるジンです(会社は2021年3月にサクラオブルワリーアンドディスティラリー、通称サクラオB&Dへ社名を変えました)。定番の「SAKURAO GIN ORIGINAL」は、レモンやネーブルなどの広島県産の柑橘、ヒノキ、緑茶、生姜、桜など、地元の素材を含む計14種のボタニカルを使います。上位版のLIMITEDでは、地元・地御前の牡蠣まで素材に使う徹底ぶりです(牡蠣を使うのは定番のORIGINALではなくLIMITEDのほうです)。

ニッカ(カフェジン)

ウイスキーで知られるニッカからは、2017年に「ニッカ カフェジン」が登場しました。「カフェスチル」という連続式蒸留機でつくったグレーンスピリッツをベースにするのが個性です。このカフェスチルは1830年頃にイーニアス・カフェが発明した装置で、ニッカ創業者の竹鶴政孝が1963年に導入しました(現在は宮城峡蒸溜所にあります)。柚子や甘夏、山椒などを含む11種のボタニカルで、原料由来の甘みとスパイシーさが同居します。

養命酒製造(香の森)ほか

薬酒「養命酒」で知られる養命酒製造は、2019年に「香の森(KANOMORI)」を発売しました。日本古来の香木クロモジを主役に、18種のボタニカルを合わせた、森を思わせるジンです。約100年にわたるハーブ研究の蓄積が背景にあります。

ほかにも、和歌山の中野BCが高野槙を使う「槙(KOZUE)」を、沖縄のまさひろ酒造が泡盛づくりの技術を活かした「まさひろオキナワジン」をつくるなど、地域色ゆたかな造り手が各地にいます。造り手を見ていくだけでも、日本各地の素材と技術が和ジンに集まっているのがよく分かります。


04 ・ HOW TO ENJOY

飲み方と和のガーニッシュ

買ってはみたものの、どう飲むのがいいのでしょう。まずは香りが素直に立つ飲み方から試すのがおすすめです。

入り口はジンソーダとジントニックです。氷をたっぷり入れたグラスで、ジンの香りをソーダやトニックで開かせます。少し慣れてきたら、ロックやストレートで香りをじっくり確かめるのもよい方法です。

ブランド公式のおすすめ

サントリーのROKUは、公式のおすすめとして「生姜のジントニック」を挙げています。氷を満たしたグラスにジン1、トニック3の割合で注ぎ、軽く混ぜて生姜のスティックを添えます。生姜がROKUの柚子や桜の華やかさ、山椒の刺激と響き合う、という狙いです。ソーダ系では、ROKUにライム果汁と少量のシロップを合わせてソーダで満たす「ROKUジンフィズ」も公式が紹介しています。

日常向けの翠は、公式が「翠ジンソーダ」を1(翠)対4(ソーダ)ですすめています。作り方にコツがあって、氷をたっぷり入れたグラスに翠を注ぎ、ソーダを入れる前に一度混ぜてジンを冷やしておきます。そのあと冷えたソーダをやさしく注ぎ、縦に一回だけ混ぜます。混ぜすぎると炭酸が抜けてしまうためです。缶の「翠ジンソーダ」は割らずに、氷を入れたグラスへそのまま注ぐのがおすすめとされています。

翠は柚子・緑茶・生姜の3素材で、食事に寄り添う食中酒として設計されています。蒸留酒なので糖質はゼロです。唐揚げや焼き鳥といった料理と好相性だと評されます(こちらは第三者メディアの実食レポートによる評価です)。

トニックと和のガーニッシュ

繊細な和の香りを楽しみたいときは、甘さと炭酸が控えめのプレミアム(ライト)トニックが向いています。甘さが強いと、せっかくのボタニカルの香りが隠れてしまうことがあるためです。

香りに変化をつけたいときは、柚子の皮、生姜のスライス、大葉(青じそ)、山椒の実などが相性がよいとされます。柚子の季節には柚子ピールがとくにおすすめです。柚子皮や生姜はブランド公式でも案内されることがありますが、大葉や山椒などは酒販店や専門メディアの提案が中心なので、「よく合うとされる」くらいに受け止めてください。

柚子の香りが前に出る季の美は、和のトニック(シークヮーサー果汁を使ったものなど)を合わせたジントニックや、ライムや柚子皮を添える飲み方が定番として紹介されています。

選び方の目安としては、本格的に味わうならROKU(ストレートからカクテルまで幅広く)、気軽な普段使いなら翠(ソーダ割りで食事と一緒に)、と役割で考えると分かりやすいです。


05 ・ EIGHT BOTTLES

和ジンの8本

最後に、最初の一本に選びやすい和ジンを8本ご紹介します。いずれも日本国内で買えるもので、味の傾向がしっかり分かれています。銘柄名だけを挙げますので、気になったものを探してみてください。

米ベースで繊細な季の美から、南国らしいまさひろまで、8本それぞれ味の方向が大きく違います。何本か飲み比べてみると、和ジンの幅の広さがよく分かります。


おわりに

和ジンは、法律の定義がないぶん、造り手の考え方や地元の素材がそのまま味に出るお酒です。柚子や山椒、緑茶、桜といった身近な素材が、飲んでみると確かに日本の香りとして立ち上がります。

まずは香りが素直に分かるジンソーダやジントニックから、気になった一本を試してみてください。そして、飲んだ感想を「酒記」に記録しておくと、次に選ぶときの手がかりになります。度数や香りの好み、合わせた料理を書き留めておくと、自分の好みの傾向が見えてきて、次の一本を選びやすくなります。


よくある質問(FAQ)

「和ジン」と普通のジンは、味が全然違うのですか。
芯は同じで、ジュニパーベリー(西洋ネズの実)が主役という点は変わりません。そこに柚子や山椒、緑茶といった和の素材を重ねるので、柑橘やお茶の香り、山椒のしびれるようなニュアンスが加わり、日本らしい表情になります。飲めばジンだと分かるのに、明確に日本的、という味わいです。
和ジンに、法律で決まった定義はありますか。
ありません。日本の酒税法ではジンは「スピリッツ」に分類されるだけで、「和ジン」「ジャパニーズジン」を名乗るための公的な基準はありません。造り手や売り手が使う通称です。なお、ジャパニーズウイスキーには2021年に業界の表示基準ができましたが、ジンには同様のものがまだありません。
最初の一本は、どれを選べばいいですか。
軽く飲みたいなら、ソーダ割り向きの翠がおすすめです。和ジンらしい華やかさを味わうなら、季の美やROKUが分かりやすい定番です。どれを選ぶ場合も、まずは香りが素直に立つジンソーダやジントニックで試してみてください。
山椒の「しびれ」は、辛さとは違うのですか。
違います。山椒のしびれは、サンショオールという成分が、痛みではなく振動を感じる触覚の神経を刺激して起こると言われます。唐辛子の辛さ(カプサイシンによる痛覚の刺激)とは仕組みが別なので、「辛い」というより「しびれと花のような香り」に感じられます。
和ジンは焼酎からつくられているのですか。
焼酎(米・麦・芋など)をベースにした和ジンは多いです。焼酎蔵が既存の蒸留設備を活かせるためで、麹由来のやわらかい風味が乗ります。ただしすべてがそうではなく、ROKUのように一般的なスピリッツをベースにするものや、ニッカ カフェジンのようにグレーン原酒を使うものもあります。

主な参考・出典

  • 京都蒸溜所 公式サイト(季の美 京都ドライジン)
  • nippon.com「玉露や柚子、山椒が香る『季の美 京都ドライジン』」
  • サントリー 公式サイト/House of Suntory(ROKU〈六〉・翠〈SUI〉)
  • サクラオブルワリーアンドディスティラリー(SAKURAO DISTILLERY) 公式サイト
  • ニッカウヰスキー 公式サイト/アサヒビール ニュースリリース(2017年)
  • 養命酒製造 公式サイト(香の森 KANOMORI)
  • 中野BC 公式サイト(槙 KOZUE)/まさひろ酒造 公式サイト
  • 日本ジン協会「国産ジン蒸溜所 調査結果」
  • 日本洋酒酒造組合「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」
  • EU Regulation 2019/787(ジンの定義)
  • The Gin Guild(Ginopedia)/Club Oenologique/Saveur/Time Out Tokyo
  • Wikipedia(Yuzu/Zanthoxylum piperitum/Gyokuro/Cherry blossom ほか)/UCR Citrus Variety Collection

本記事は公開情報をもとに作成しています。商品の仕様・度数・価格・流通状況は変わることがあります。お酒は20歳になってから、適量を楽しみましょう。

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